こうして僕らは、夢を見る




「あのね?蕾姉ちゃん」

「ん?」

「わ、笑わないできいてね」

「うん」

「わ、笑わないでね!?」

「笑わないよ」

「ぼ、僕ね?」

「うん」





グッと拳を握り締めたのが横目で見えた。息を吐き、再び吸い込む。そして力強い眼差しで言った。声はひ弱で非力さがある。だけど本気なのが瞳から伝わった。






「せ、先生になりたいんだ」






ジッと見つめられ、そう告白された。






「先生?」

「う、うん!僕みたいな子を助けてあげたい!簡単に死んじゃ駄目だよって教えてあげたい!生きてたら楽しいこともあるって!」





言葉らしい率直な言葉。飾り気がなく伝わり易い言葉に微笑ましくなる。一生懸命私に話してくれる玲音くん。しかし不意に疑問が生まれる。



玲音くんから"楽しい"と言う言葉が聞けるとは思わなかった。



嬉しい。素直に嬉しい。でも同時に玲音くんの変化が気になった。どうして急に"楽しい"なんて言うようになったのかと。






「僕ね?空手習い始めたんだ」

「空手?」

「うんっ!兄ちゃんみたいに運動出来ないけど強くなりたい!弱虫のままじゃ要られないもん!僕変わりたいんだ!強くなりたい!」





力強い言葉。はっきりと意思が固まっている。会った頃とは別人だなぁ。ずっと泣いてたのに。入院しているときも退院するときも。自分を"弱虫"だと断言出来る様になった事が凄いよ。





「それで、」





何かを言いたくて濁す。言い辛そうにしてるけど反面、言いたくて仕方ないという顔をしている。



はじめは何かな?と首を傾げていたが瞬時にピンと来る。





「友達出来たの?」

「え!?」

「図星か」





大袈裟に声を上げて驚く玲音くんを見てケラケラと笑う。



恐る恐る頷いた玲音くんは嬉しそうに、だけど何処か哀しみを含んだ声色で教えてくれる。





「……ぼ、僕の目綺麗だねって、宝石みたいだって、」





玲音くんの瞳はエメラルドグリーンの色をしている。母方の祖母からの遺伝らしい。髪は黒色。瞳はエメラルドグリーン。それが災いし玲音くんは虐められていた。



スッと玲音くんの瞼に壊れ物を扱うように触れる。





「綺麗だよ」

「つぼ、」

「良かったね」

「……っ、」





優しく微笑めば涙ぐむ玲音くん。慈愛に満ちた眼差しで小さいな男の子を見つめる。





「生きてれば辛いこと何て何十回も何百回も来るよ。だけど楽しい事も何百回もある」





ポタポタとシーツに玲音くんの涙が落ちる。辛い想いをしてきたからこそ言葉の重みが解る。小学生の子が一体何れ程辛い思いをしてきたのかと考えるだけで身の毛が弥立つ。





「生きてるからだよ。生きてるから泣けるんだよ。友達も出来るたんだよ?家族にも会える。辛くても支えてくれた人は居るよ」

「……ひっ、く」

「玲音くんが出すSOSに気付いてくれる人は必ず居るから。玲音くんの心は玲音くんにしか解らない。でもね?ただ一言『助けて』って言えば駆け付けてくれる君のヒーローは絶対居る。少なくとも1人はね」





ニィと口元を上げると、零れ落ちる涙を塞き止めるように掬った。










「わたしがヒーローだ」





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