こうして僕らは、夢を見る
その言葉を皮切りに抱き着いて来た伶音くん。反動でベッドが軋む。小さな身体を受け止めた。





「うわあああああん」





どうやら涙腺が崩壊したらしい。声を上げて泣く玲音くんの背中を優しく撫でる。先程から泣きそうだったけど到頭泣いちゃった。



困るなー…玲音くんに泣かれちゃうと困るんだよ。蕾姉ちゃんまで泣きたくなっちゃうから。





「うああああっ、ヒッく、っ」

「よしよし。よく頑張った」

「ほ、ほんとはっ、誰かに助けて欲しかった!でも怖くてっ、」





途切れ途切れの言葉。一生懸命に単語と単語を繋げる。まだ小学生。思いや考えを上手に伝えるのは難しいはずだ。だけど玲音くんは私に伝えようと一生懸命に話す。それを私は受け止める。





「学校、怖いし。家も怖かった。や、優しさが怖かった。兄ちゃんに頼りそうになるしっ」

「うん」

「パパとママにバラせば学校で、もっともっと酷い目に合うかもって考えたら家が怖かったっ」

「うん」

「い、居場所なんてっ、どっ何処にも、無くって、」





小さな手でギュウッと私の服を掴んだ。その小さな手に胸が痛む。どうして誰も気づいて遣れなかったんだよっ



"誰か1人くらい…"なんて理不尽な事を思ってしまう。



変なとこで子供は大人びている。周りの目とか反応とかに敏感だ。大人には大人の視点がある。



"世間体""金""仕事"



それと同じ様に子供ならではの視線がある。"学校""友達""勉強"。きっと一番に浮上するのは人間関係。それは親の目に届く事はない学校生活の中での事。



気付かないのはコミュニケーションが欠けていたからだ。もっと耳を傾けて居れば何かしら変わったと思う。



大人が思っている以上に子供は、沈着なんだよ。





「僕が居なくても、何も変わらないんじゃないかって思った…っ」

「……」

「気付いたら踏切に居て、」

「……」

「あの嫌な音が鳴って、そしたら――――――――――‥‥」

「……」

「蕾姉ちゃんが居た」





あの場景を思い出しているのか、玲音くんは何処か遠い目をしている。心ここに在らずだ。



"嫌な音"



それは私も同じ。



嫌な音に"なった"



普段何気なく聞いていた音がいまでは怖い。何かが迫り来るようで震えが止まらなくなる。世間一般ではトラウマと呼ばれるもの。



フラッシュバックする、あの音。じわじわと病室に浸透する嫌な音に眉を顰める。じっとりねっとり襲い掛かるような嫌な音。
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