こうして僕らは、夢を見る




「ん?もう行くのか?」

「うん。そろそろ行かないと母さんに怒られる。寝坊したからだけど。まだ怒声は良いけど雷の直撃は相当なパンチだもん。」

「はは!蕾は寝坊している自覚を持ちなさい。でも母さんなら既にキレていたけどな」

「自覚ならしてる!寝坊したよ?でも寝坊したからって朝食を抜く理由には為らないよ」

「母さんの手料理を無下にしない蕾らしいな」

「だって朝から態々美味しい朝食作って貰ってるんだから残すのは母さんに悪いもん!」

「それは私じゃなく母さんに言いなさい。きっと喜ぶから」

「えー……やだ」





唇を尖らした私を父さんは笑ったような気がした。口元が新聞紙に隠れているため事実は解らない。



気恥ずかしくて面と向かって言えないよ。母の日ならOKだけど。カーネーション付で愛を叫んでやる。プレゼントは家電製品?食器洗い機欲しいとか言ってた。それか最新型のプラズマテレビとか?――――――――あっ!そうだ!忘れるところだった。血液型占いを見ないと!



私は何処へ行くにも朝のニュース番組で遣っている血液型占いを見てから出掛けている。その占いを見ないと1日が始まらない。



思い出したら直ぐ行動。いそいそとテレビの電源をつける。





「………蕾」

「んー?」





あ!良かったー!



まだ遣ってない!



立ったままズズーッと珈琲を啜る。そしてテレビを見てから一安心。まだファッションのコーナー。この次に星座占いだもん。





「気をつけなさい」

「えー?なにー?何か言ったー?父さんもう1回ー!」

「だから気をつけなさい」


「なにに?大会で転けたりする程間抜けじゃないよ?あはは!1年前は腹壊したけど今日は大丈夫!去年は先輩達に1人で混じってたから緊張しちゃっただけ!あれは光陽の恥さらしだったよ。聡美には爆笑されたもん。アナウンスで【光陽高校1年美空蕾さんは腹痛のため―――】とか笑い者!態々アナウンスで言わなくても良いのに!あの運営委員のせいで恥掻いた!今年は大丈夫―――‥」


「蕾」





父さんに悟られる。


珈琲を啜りながら戯けたように話す私は漸く父さんに目を向けた。珍しく真剣な瞳で私を見ている。





「気をつけなさい」

「………何が」

「なんとなくだ」

「はー?もう天然なんだから!」

「蕾も負けず劣らず天然だよ」






またその言葉。ヘラヘラと笑うが内心モヤモヤが消えない。


何に気をつけるのか。父さんの言いたい事が分からない。





「嫌な予感がするんだよ」

「………」

「まるで数年前に私の父さんが事故で死んだときのような―――…あのときの胸騒ぎがする」

「………ちょ、止めてよ。縁起悪い。いまから大会なんだけど」

「だから気をつけなさい」

「………はーい」





やべ。腹痛くなってきた。



痛みを和らげるためお腹を擦る。こんなときにそんな事を言わないで欲しい。仮にも大会前の女の子に。女の子は繊細なんだから。



父さんの勘は当たる。私は父さんの助言を素直に受け止めた。



気を持ち直すために珈琲を飲むが味がしない。さっきまで美味しかったのに今は全く。気が気じゃない。大会で失態を見せるとか?
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