こうして僕らは、夢を見る








――――――――――――――――――――――





閑静な住宅街を抜けると商店街を駆け抜けた。お萩屋のおばちゃんやコロッケ屋のおじちゃんから、お萩とコロッケを貰った。



八百屋のおじちゃんも渡して来たけど流石にキャベツ一玉を持って大会が開催される会場には行けないから丁重にお断りした。



母さんが居れば貰えるものは貰っとけ!って絶対怒られてたな。でも流石にキャベツは無理がある。キャベツを持ちながら…



『やあ?皆。おはよう!いい朝だね?今日は精一杯ガンバろうか!結果はどうであれベストを尽くすのみさ!』



なんて言ったら確実に士気が下がる。台詞はいいのにキャベツのせいで台無しじゃん。荻窪先生に鉄拳制裁されるよ。おぞましい。





「――――ん?」





商店街を抜けると、踏み切りに差し掛かった。


しかし近付くにつれ漸く人集りに気が付いた。なにやら騒がしい。場が騒然としている。


なに?何の騒ぎ?



タタタタタッタッタッタ――――――‥コツ、コツ、コツ



走るスピードを下げて歩き出す。歩きながら周りを観察するように見るが私は首を傾げる。



口元に手を当て今すぐにでも叫びそうな主婦の方々。顔面蒼白なサラリーマン。何かを叫んでる爺さん。ひそひそ話をする女子高生。面白可笑しくケラケラ笑っている中学生風の男の子達。



十人十色の反応。何がなんだか分からない。





「ねえ。お姉さん」

「え?あたし?」

「そうそう、あたしです」

「やだっ。お姉さんだなんてっ」





40、4、5歳の女性に声を掛ける。ピンクのエプロンにワンピース。見たところ専業主婦のような女性。お姉さんと呼んだ私に機嫌を良くしたのか頬に手を当てる。





「なにかあったんですか?」

「まあっ、知らないの?」

「はい」





そりゃあいま立ち寄っただけですから。皮肉染みた言葉をグッと飲み込んだ。叔母さん―――――――――――げふんっ。お姉さんは『あらあら』と口元に手を宛がい私を見てくる。





「ほらっ!見てあれ!」





お姉さんが指差す方向に視線を向ける。


その先には線路。


周囲の視線はその線路に集まっている。何かサーカス団がパフォーマンスでもしているのかと騒がしさから思った。しかし良く目を凝らすと―――……





「お、とこの、子?」





線路には男の子が立っていた。





「そうなのよ!あの子が線路に入っちゃって大変なの!」

「え、え、ちょ、え?」

「自分から線路に入ったのよ!?どうにかしないと電車が来ちゃうわ!あの子が轢かれる!」

「た、助けてないんですか?」

「だからいま誰かが警察に電話をしたわ」

「は?」





話を聞くと私は吃りながら喋る。だけど隣のお姉さんが警察と言う言葉を述べたとき瞬時に我に返る。冷静になる思考。冷える頭。



警察って――――――は?ここから最短の交番まで約15分。迚もじゃないけど電車が来る数秒後までには来れる筈がない。この人は本気で警察に頼もうとしてるの?



『あら大変』と口元に手を宛がうが正直他人事。実際他人事だけど冷静な対応に私は眉を顰める。



そうこうしていると、突然叫び声が響いた。








「もう嫌なんだっ!」






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