こうして僕らは、夢を見る
線路に立つ男の子が叫んだ。
私はそちらに耳を澄ます。
「疲れたんだ!生きるのに!」
その言葉に目を見開く。
どうして男の子が危ない線路に立っているのかが露になる。
「僕は化け物じゃないもん!ママの悪口を言う奴等は許さない!」
「分かった!もう分かったから!坊主こっちに来い!」
「分かってないよ!みんなこの目を見て化け物だって言うんだ!お婆ちゃんと同じ目なのに!気持ち悪いって言うんだよ!?」
「坊主は化け物じゃない!」
「もう痛いのも嫌だ!僕は悪いことしてないのに!目をカッターで抉ろうとするんだ!ひっ…く、」
「泣くならこっちへ来い!な?」
「僕はっ僕はっ」
「死のうとするな!君はまだ若いんだ!まだこれからだ!」
「そうだぞ!命を粗末にはするんじゃない!」
「あの子の母親は誰なの!?」
踞る男の子に大人達は声を掛けている。場は騒然。よく見れば男の子の瞳はエメラルドグリーン色。化け物?気持ち悪い?―――――寧ろ綺麗な瞳じゃん。
その綺麗な瞳から大粒の涙が零れ落ちる。踞り泣く男の子に周囲の大人達は必死に声を掛けている。
なに馬鹿げた事やってんの?声を掛けるくらいなら助けなよ!誰も線路に入ろうとはしない。幾らこの線路の幅が大きいからと言ってまだ電車は来ない筈。子供くらい抱き抱えられる。しかし大人達は"万が一"を想定して踏み切りを越えようとしない。
自分が死ぬ事が"万が一"?
……違う。
あの子が傷つくことが"万が一"
踏み出そうとした足を引っ込め、私はお萩とコロッケの入ったビニール袋をギュッと握る。
これから大会なんだ。ただでさえ時間がない。こんなところで時間を費やしてる暇はない。確かに男の子は心配だけど私には大会がある。足を引っ込めた私は開催場に足を向けようと反転する。
振り返れば沢山の人集りが。
見守るだけ。男の子の行く末を。見守るなら助けろよ!?そう叫びたかった。だけどから男の子すら見棄てて開催場に向かう私が言う立場ではない。早急にエントリーを済まさないと失格だ。いまなら全力で走れば間に合う。
目を伏せ立ち去ろうとした瞬間。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンッッッッッッッ
ひときわ遮断機の音が大きくなった。