こうして僕らは、夢を見る
私はその音に引かれるがままに振り返る。遮断機の音は鳴り止まない。遠方から電車が近づくのが分かる。遮断機の音。電車の灯り。人の叫び声。全てが鮮明だ。



カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン。



ワタシの頭に鳴り響く音。





「…………っあ」





無意識に一歩を踏み出した足。



行かなくちゃ。早く行かないと。でもどこに?私はエントリーしに行かなくちゃ。でも私は見過ごせる?この光景を。あの男の子を。



駄目だ。駄目だ。駄目だ。



助けに行かなくちゃ。誰かが。



誰?――――周りを見るが行こうとする人の気配はない。グッと唇を噛み締めるとジワジワと血の味が口の中に広がった。





カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン





怖い。怖い。怖いけど。



――――――ドサッ



スゥーと腕からすり抜けるようにエナメルバックを地面に落とす。無意識の行動。



同時に落ちたビニール袋からはお萩とコロッケの潰れる音がした。






『あら貴女。鞄落ちたわよ?』






隣でお姉さんが声を掛けてくるけど機械が話しているようだった。聞こえづらい声。ワタシの意識は踏み切りのなか。研ぎ澄まされた神経は踏み切りに注がれる。





カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカ





ああ。怖い。父さんの勘が合ったよ。怖い。嫌な感じだ。





カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン





激しい動悸。止まらない目眩。頭の芯から爪先まで震える。恐怖が私を支配する。一歩。また一歩。ゆったりとしたスピードで進む。なかなか思うように前に進まない足に苛立ちが募る。涙で前が霞む。誰か変わりに行って欲しいのに誰も行かない。でもあの男の子を助けないと。なら私が行くしかない。確かに怖い。だけどあの子の気持ちが私には良く分かる。恰も“私の幻影”を見ているようで。





『坊主死のうなんて考えるな!』





踏み切りから身を乗り出した大人は自殺を図る男の子に叫ぶ。しかし男の子は泣きながら首を振る。横に首を振り続ける男の子の体は終始震えている。屈み込む小さな体は震えていた――――――――――――――――フルエテイル?




そのとき瞬時に理解した。男の子は足が竦み歩けないことを。自殺自殺自殺自殺と周りが囁く。しかし男の子は本当に自殺をしたい訳じゃない。



ただのSOS。ただの衝動。その光景が“小さい蕾”を見ているようだった。やっぱ男の子は“私”に似ている。



首を横に振り震えている男の子の口が形を作る。私は目を凝らして男の子の口元を見つめる。声は聞こえなかった。だけど口元だけを見て男の子が何を呟いたのかが私には分かった。



その瞬間。



『え!?ちょっと貴女!?どこに行くの!?』



迷いは消え失せた。








カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン
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