こうして僕らは、夢を見る
「いい加減にして!」
母さんの声が503号室から漏れる。その怒声に私は額を押さえた。頭痛の種だよ。
「そんなにウチの子を傷つけて楽しい!?言っていい事があるでしょうが!看護学校行って資格取ったてるんでしょ!?学校で習わなかったの!貴女達の仕事は何!?患者を不安がらせる事が貴女達の役目なの!?」
「お、お母さまっ」
「落ち着いてくださいっ」
「五月蝿い!」
怒鳴る母さんの声が病室は愚か、廊下に響き渡る。何だ?何だ?と人が集まる。私も流れに逆らわず病室のなかを覗く。顔を出した私に看護婦さんが目を見開く。
「つ、蕾ちゃん!?」
「き、聞いてたの?」
「聞かれて疚しい事でもあるんですか?」
「………っ」
車椅子に乗る私を見下ろしている筈なのに看護婦さんが小さく見える。自分達の失態に唇を噛み締め口を紡ぐ看護婦さん達。
「私は自分を“可哀想”だなんて思っていませんよ」
「…そ、それは」
「あなた方からすれば私は“可哀想な子”なんでしょうけどね」
「……っ」
相当私は冷めた瞳をしているだろう。
「何の騒ぎですか!?」
「し、主任っ」
看護婦さんの長が来たみたい。外に居た看護婦さんが叫んだ。それでも看護婦さん2人は俯いたまま。母さんは看護婦達さんを睨む。私は看護婦達さんを冷めた瞳で見つめている。
異様な雰囲気に気づいたのか主任さんが扉付近で立ち止まる。
「……私は」
静かな病室に私の声が響く。
「私は後悔していません。怪我をすること承知であの場に飛び込みました。尊い命を助けたかった」
なにも考えず、ただ人混みを駆け抜けると遮断機を飛び越えた――――……
「死にたくなる?私は生きたい。何度も何度も生きるのが辛いと思ったことは合ったけど―――――――いまは生きたい。辛い思いをしながらも男の子が精一杯生きる道を選んだのに私が逃げるなんて無様な真似は出来ない」
たった二文字。『死ぬ』『死ね』
言葉では何度でも言えるよ。でも『生きたい』なんて日常会話では余り使わない。どうしてだろう?不思議で堪らない。
だからなのか。あの幼い男の子が『生きる』ことを口にしたことは私には衝撃的だった。まだ小学生なのに生と死の狭間に居ることが信じられない。
「なのに死にたい?」
「……っ」
「私が可哀想?」
「……ちが、」
「何が分かる……っ」
歯を食い縛る。