こうして僕らは、夢を見る









蕾姉ちゃんに逢えますよーに。



おねがいしますっ



メロンパンの神さま。









( 3 )





「わざわざ別にお見送りなんていいのに。蕾も大変なんだから」

「大丈夫。母さんが本当に帰るか見届けなきゃイケないし」

「やだぁ。ちゃんと今日は帰るわ。パパが干からびてるかもしれないし。水を与えに帰らなきゃ」

「パパの好きな大根の煮物にしてあげなよ?」

「そうね〜…迷うわ。蕾が居た頃は蕾に合わせて作ってたから」

「わたし焼き肉食べたい」

「はいはい。退院してからね」

「むぅ」

「はいはい。不貞腐れない」

「仕方ないな。いまはこれで我慢しておくよ」

「はいはい――――ってちょっと待ちなさい」





車椅子が急停止した。





「食事制限あるのに何食べてるの!?駄目じゃない!コンビニに居たときは蕾が菓子パンを隠し持ってるとは思わなかったんだから!ママに内緒で蓄えるの禁止!」

「非常食だよ」

「何のだ」





カサカサ―……とビニール袋からクリームパンを取り出して食べ始める。マイペースな私に母さんは呆れて溜め息を付いた。何を言っても無駄だと理解したのか車椅子を押す。





「せめて廊下で食べるのは止めなさい。見つかるでしょ?」

「空腹第一。安全第一。パン第一。空腹には勝てん。腹が減っては戦は出来ぬ。ふふふ〜ん!愛しのクリームパンちゃ〜ん」

「貴女が病人か疑うわ」

「なぬ!失敬だなー。何処をどう見ても病人でしょうが!」

「もうマダガスカルから無事生還した遭難者にしか思えない」





失礼な母親だと思いながらクリームたっぷりのクリームパンを口に含む。うま!朝は食パンと牛乳だけだったからな。クリームパンが天使に見える。



今日はシズ子ちゃんに没収されなかった。枕の下に隠して置いたから。その光景を見た母さんには呆れられたけど。




「…んん?」





あれ、確かこっちって――‥





「…マミー」

「なあに?つーちゃん」

「…あっちに行ってほしーのよ、つーちゃんは」





突然の別れ道。どちらも長い廊下。あっちにもこっちも医者や患者。私は左を指差した。私達が行こうとしたのは右。真逆の廊下だ。





「何?何かあるの?」

「…んんー」




わかんない。ただの勘。でも確かこっちだったような気がするんだけどなー。んー。んんー?



言葉を濁らす。母さんは左の廊下を眺めている。まぁこれといって用が無いから当たり前か。





「…とりあえず行ってくれないかい?マミー殿」

「…了解しやした。姫さま」





私に似て相変わらず乗りの良い母親だ。あ、違う。私が母親に似たのか。お転婆な性格は母親譲り。任侠好きも母親譲り。和食好きは父親譲り。





「何かあるの?」

「多分だけど此方には―――――――――――」





そうこうして徐々にハッキリと見えてきた人影。言い掛けた言葉を止めた。慌てて母親に車椅子を止めるように託する。ジーッと一点を見つめる私の視線を母さんが追いかける。





「まあ……」





驚いた母さんが口元に手を宛がった。驚くのも無理はない。各言う私も驚いてる。
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