こうして僕らは、夢を見る
「あの子が玲音くん?」
「うん…」
そうなんだけど…
曖昧に返事をする。そしてもう1度視線を向けてみるが―――――――――やっぱり玲音くん。
黒髪にエメラルドグリーンの瞳をした小さい男の子。そして日本人離れした優美な顔立ち。やっぱり玲音くん。何度見ても玲音くんに間違いないんだけどな。
何かあったのかな?
玲音くんに。
「う゛わぁぁあぁぁん」
メチャクチャ泣きじゃくってるけど。
それはもう凄まじい泣き声が廊下中に響き渡る。今日退院って本当だったんだ。鞄と服装から察知する。だけど玲音は泣き喚き一向にその場から動こうとしない。
「レオ、泣き止みなさい」
玲音くんの母親・ミラージュさんが涙を拭う。
「うああん!いやだあ!」
「玲音!いい加減にしろ!」
「煩い!禿げ!うあああんっ」
「は、禿げ……!?」
「あなた。ちゃんと髪はありますから。いちいちレオの言葉を真に受けないでください」
「あ、ああ。悪い」
相変わらず麗しいパパさん。しかし禿げだと言われ髪を触っているところをミラージュさんに咎めらてしまう。相変わらずの美形夫婦。玲音くんみたいな子が産まれるのにも納得だ。
2人に逢ったのは入院生活を初めて間もなくしてからの事。何度も何度も頭を下げられ謝礼された。土下座しようとしたパパさんには本気で驚いたけど必死に止めた。
それからミラージュさんは何度も病室に来ては玲音くんの話をしてくれた。話を聞くだけで実際には玲音くんとは逢ってない。こんな怪我だらけの姿を見せたくなくて延期して貰っている。
もう少しだけでも回復してから、とミラージュさんと意見が一致した。
「ねぇ蕾?どうして泣いてるの?まるで怪獣の叫び声みたい」
「確かに。でも知らないよ。玲音くんが泣いてる理由なんて。退院したくないからとか?」
「そんな馬鹿な。退院したくない子とか居るのしら?我が家に帰ればママとパパが居るのに。入院したくないなら分かるけど」
「それもそうだよね。入院は怖いよ。幽霊出るかもとか脅えて過ごす夜だもん。小学生にはキツいよ。私でもキツいから」
「それは蕾だけよ。まだ怖いとか言ってるの?慣れたって言ったじゃない」
「最近患者さん達と怪談話したんだよ。夏の醍醐味だし。それが意外とパンチが利いてさ」
「お馬鹿」
「全くです」
ここの患者さんの怪談はハイレベルだ。言ってる本人たちが驚いてたくらいだもん。しかも爺ちゃんや婆ちゃんが多いから昔の話も出てきてリアルさがあった。その日は怖くて怖くて寝付けなかった。
病院の怪なんてのもあったなー…と思い出しながらクリームパンを頬張る。
「づぼみねえぢゃんにあうの!」
「……ぶほっ」
突如聞こえた言葉にクリームパンが吹き出た。そして思わず力んだクリームパンを持つ手。ムニュとパンからクリームが顔を出す。
「やだ汚い!」
「め、面目ない」
母さんが慌てて吹き出したクリームパンをウェットティッシュで拭き取ってくれる。ち、小さい子供みたいで恥ずかしい。