こうして僕らは、夢を見る
リハビリをするにつれ走れないことを痛感して嫌気が差した。リハビリも勉強も疎か。全てが等閑。全てが中途半端。
ウジウジとベッドで不貞寝する毎日。駄目なんだよ。このままじゃ。だから私は前を向くために棄てる。儚い夢も僅な希望も。
「諦めることにしました」
真剣な眼差しで告げる私に先生は夕陽を見つめたまま黙った。
前を向きたい。このシューズは大切。とても大事だけどいまは傍にあったら駄目だと思った。
“私が”駄目になる。
“脚”?“頭”?“心”?
―…違う。“ワタシ”が崩れる。
そして先生は何を考えているのか分からない声で言う。
「蕾ならどこでも雄飛出来る」
「はは。いまはとりあえず勉強とリハビリの往復です」
「そうか」
先生がポケットに突っ込むと煙草を取り出した。珍しい。
「蕾の背中を押してやりたいんだがな――……」
煙草を口元に宛がう先生を横目で見る。その呟きは切なげで重苦しい。澱む雰囲気に息が詰まる。
「俺には無理なようだ。お前の背中を素直には押せん。いかんせんお前の耀く姿を見てきたからな。いまさら無理だ」
自嘲的な笑い。
ライターの火が莨につく。
橙色の火は空の色と極似していた。
「夢を諦めるには、まだ早い」
紫煙がオレンジ色の空に吸い込まれていった。