こうして僕らは、夢を見る
カチ、カチ、カチ、カチ
静けさが浸透する部屋に針の音が聞こえる。ハートのクッションを膝に置いて抱き抱えている。涙に乍に語ったのは数年前の話。
新聞紙に掛かれた内容だ。
大方話を終えた私は、ゆっくりと瞳を閉じる。部屋には啜り泣く声が聞こえる。思わず私も涙が溢れそうになってしまう。
ようやく彼等が声を出す。
「感涙に咽ぶなよ、楓」
「う、うっせえ!翼もだろ!?」
「か、感動じゃね〜の………」
「……うん」
「どうしよ。涙が止まらない」
「案ずるな司。俺もだ」
ティッシュで涙を拭う彼等。各々が想いを口にする。黙ってそれを瞳を閉じて私は聞いている。丁度いい。私も言いたい事があるから。ハートのクッションをギュッと強く抱き締める。
そして鼻を啜る翼が涙ぐみながら叫んだ。
「パティオ―――――!」
「ちょっと待てやゴラア」
あきらかに可笑しいだろ。
叫んだ翼を威嚇するように睨む。
「良いとこ何だから邪魔すんな!空気読め!KYにも程があるぜ!KYHBだ!KYでチビなブス!パティオが旅立つ場面なのが分かんねえのか!?」
「うん。何かが間違ってるよね?翼君。可笑しいでしょ?いま感動するような話してたよね?なのに何でビデオ見てんの?ねえ?」
部屋が静か?静かどころかTVから大音量で声が溢れている。静かだったらいいなあ―――……簡単に言えば願望。静かと呼ぶには程遠い煩さ。涙が出てくる。
何時からかビデオを見始めた6人。しかも私が借りてきたビデオ。確か余命半日のワンコ。感動話をそっちのけでTVを弄り出した彼等を尻目に語る事を止めなかった私は寛大すぎる………!
「余命半日のワンコとかふざけた名前の癖に泣ける……!」
「聞けよ。私が泣いてもいい?ビデオとかどうでもいいからさ」
「KYHB!パティオを馬鹿にすんなよ!?いいか!?余命半日なんだぞ!?愛犬の余命が12時間とか泣けるだろうが!?」
「まずストーリー可笑しいよね。何で半日なの?いきなりパティオは12時間後に死ぬとか告げられたら発狂するよ。何そのウケ狙い的な映画。私が借りてきたDVDだけど」
「KYHB!何で最初っから見てねえんだよ!?阿呆か!愛犬と僕が描く家族愛を題材にした話なんだよ!集中して見とけよ!?」
「いやいやいや。待とうか。待とうか鈴木さん」
「俺は蒼井だ!」
「そうそう蒼井君って―――――ええええええええええ!?翼って蒼井って言うの?いま知ったよ。何そのカミングアウト的な感じ。蒼井翼君?インプットしとくね。改めて宜しくお願いします」
「あ。いえいえ。こちらこそ宜しくお願いします」
何だこの光景は。
「嘗めとんのかワレエエエエ!」
「ぐあっ」
アッパーを食らわした。
2人揃って床に手をつき頭を下げる摩訶不思議かつ不気味な光景。ふざける翼に私はキレた。