こうして僕らは、夢を見る
「いや〜オメーが蕾ちゃんの涙に耐えられなくなった1番目の奴?笑っちゃうじゃね〜の。結局のところはどうなのよ?蒼井君?」
「は?自惚れんな。涙どころか顔見てると吐き気してきてパティオ見ただけだっつーの」
「そんなこと言うと嫌われるぞ」
「………」
「朔打ち込むね」
「…うん」
「さ、朔も悪気ねえんだから大目に見て遣ろうぜ?」
「くくっははははは!やべえっ。オメーまじウケるわ!いっそのこと嫌われちまえよ?そっちの方が楽なんじゃね〜の?」
「ああ?」
楓君のフォローも虚しく、籃君が大笑い。珍しい。籃君が声を出して笑ってるなんて。貴重な瞬間に私は目を凝らす。
反面翼の機嫌は急降下。大笑するに籃君に眉を顰める。
――…緊迫した雰囲気に見兼ねた私は司くんの傍を離れて不機嫌な翼に近寄る。
そして眉間の皺が寄せられているところに指を添えた。
「かお、こわい」
皺を指で押しながらそう言った。翼はジーッと私の顔を見てくる。そしたら急に頬に残る涙の跡を手の甲で拭うと頬を引っ張られた。
「いちいち泣いてんじゃねえよ」
「いひゃい、いひゃいへふ」
「萎れるとからしくねえんだよ――――…調子狂う」
小さな呟きが耳を掠めた。きっとそれは私にしか聞こえていない。絞り出したような声。何だかんだパティオを見ながらも私を気にしていたらしい翼に胸が空く。
「……ありがと」
翼が腰掛けているソファーの隣にポスッと座った。その際、翼だけに聞こえるように耳元で呟いた。少し照れ臭くて俯いたまま。
「素直じゃねえな」
「アンタがね」
アンタだけには言われたくないんだけど。
どうが見ても素直じゃないのは、翼のほう。ツンデレだから。いや“ツンツン”か?“デレ”が無いもん。“ツン”が凄まじく強い。素っ気ないどころか言葉が槍。流行りの草食男子には程遠い。弱肉強食な男。その割に変なところで優しい。
調子狂うのはこっちの方だっつーの……
心のモヤモヤを振り払うと直ぐ傍に合ったハート型のクッションを手にするとユックリ顔を埋める。
そして顔を埋めてるため見えないけど楓君が思い出したように呟く声が聞こえた。
「つ〜かさマジで気付いてねえの?馬鹿じゃねの?その金髪ってどうみても―――――――ふがが」
呆れたように何かを言う楓君。
しかし峰まで言うことは無かった。急に曇った声に不思議に思い楓君に目を向ければ――――――――――――司くんがテーブルに合ったパンを楓君の口に詰め込んでいたから。
ち、ちょっと。
それ私の蒸しパンなんだけど!?
「楓の気持ちも分からなくはないな。まさか蕾さんがここまで鈍いとは……」
「確かに〜。いや〜。話には聞いてたけど“お姉さん”が蕾ちゃんだったとはな〜。驚き。驚き」
「……俺も」
「巡り合わせっつー奴だな。気が付かねえHBには呆れるぜ」
楓君を他所に会話される。然り気無く私を罵る言葉が飛び交う。
本気で何がなんだか分からない。私は独りオロオロする。
司くんは何事も無かったかのように話出す。テーブルの上に置いてある薬が入った袋を手にして。
「これ処方箋ですよね?いまでも病院に通ってるんですか?」
「あ、うん。希に。心療内科だよ。食欲不振とか不眠。不安。気分の落ち込みがある場合は抗うつ薬や抗不安薬を処方して貰ってる」
「意外に繊細な神経なんだな〜。俺と一緒じゃねえの」
「君はどちらかと言えば図太い神経だよね」
うんうん。
神妙に頷いた。
君たちのなかに繊細の子は居ないよ。図太い子たちばかりだ。いいのか悪いのかはよく分からない。まあ柔ではないから良いのかな?