こうして僕らは、夢を見る
「夜な夜な枕を濡らしたよ」
「戯言いってんじゃねえよブス」
横に座る翼にギロッと睨まれた。鋭い目付きが突き刺さり私は不貞腐れる。戯言じゃないもん。本当に枕を濡らしてたんだから。1人寂しく夜を過ごしてたよ。
「なによ〜……真面目に聞いてなかった癖に。せっかく話をして上げたのに。どう考えても泣ける話だったでしょ?態々掘り返したくもない【英雄になった蕾】の話をして上げたのに何だその態度は」
「頼んでねえし」
「はいいいい?頭大丈夫ううう?アンタが『話せよ』みたいなこと目で言ったんじゃん。私に訴えたから話したんだよ?」
「阿呆か。新聞を投げただけだ。お前が勝手に話し出しただけだろ?頼んでねえわ」
「はああああ!?何それ!」
ムカつく!屁理屈ばっかな男は嫌われるよ!あからさまに話せって言ってたもん!監視カメラあったら再生して確かめてるよ!絶対に翼は意味深な眼をしてるから!
「俺は聞けて嬉しかったですよ」
「司くんんんん!」
「俺は陸上部より美術部っぽいと思ったんだけどよ。陸上部とか、か〜な〜り、意外じゃねえの」
「うん。籃君。態々そんなに強調しなくてもいいからね?」
言いたいことは分かる。運動音痴って言いたいんでしょ?でも残念ながら運動音痴とは程遠い体育会系女子。室内で絵を描く美少女な美術部員には成れないよ。生憎、美術の成績は2だった。
私は態とらしく水玉のハンカチを瞳に宛がいメソメソする。
「お姉さんもこう見えて結構辛い思いをしてきたの……っ」
「お前の感動話とか興味ねえんだよ」
「じゃあ何で家に来たの!?」
いやいやいや!
即座にハンカチを退かして凝視する。あんぽんたんな翼を。だって今さりげなく凄い事言ったよ?
ちょっと待ってくれ。本気で君達は何しに来たの?新聞紙必要なくね?私の陸上部時代の馴れ初め的な話を聞きに来たんじゃないの?だから家まで乗り込んで来たんじゃないのか!?私達の話が噛み合ってないよ!
「そんなことよりも俺が聞きてえのは無視した理由だ。何で電話に出ねえんだよ。ひとまず感動話は置いておけ」
「は?電話?」
「俺も蕾さんに掛けたぞ」
「つうか全員掛けてんじゃねえの」
「は、はあ!?お、俺は別に…。言っとくけど掛けたくて掛けた訳じゃねえからな!?しししし心配とかしてねえし…!」
「はいは〜い。ツンデレワンコの楓君は黙ろ〜ね―――――――――…話をややこしくさせんな」
最初は柔らかく言っていた籃君が小声で楓君を咎め立てた。低い声に少しゾッとする。籃君が真面目だと言う事が分かる。
小さな声が聞こえた楓君も私も顔が真っ青。
こ、こんな籃君初めて見た。
怖っ!本気で怒らせたくない人物ぶっちぎりでNo.1かも。
「新聞紙は桜子姐さんに貰っただけだっつーの。本題は電話だ」
「は?桜子?」
「ああ。潔く呉れた。お前の事を知りたいなら読めってな」
「……」
問題源は新聞部ではなく桜子みたい。絶対新聞紙が廃棄されるとき懐に1枚だけ取っておいたんだ。もう夏フェスは絶対着いて行ってやんないから。後で仕返ししようと私は心に誓った。
「―――で?」
「え?なに?」
「だから電話はどうしたんだっつってんだろうが!しつけえぞブス!何回も言わせじゃねえよ!その耳は飾りか!?ああん!?」
「ど、怒鳴らなくたって良いじゃん………」
「こっちはテメーの家を捜すのに手間取ったんだよ!ここらの立地しらねえから危うく遭難者になるとこだったじゃねえか!電話して聞こうにも出ねえから自力で捜したんだよ!」
あまりに凄さまじい翼の覇気に私はビクビク。
え、えーっと何だっけ?た、確か電話の話だよね?で、電話、携帯電話、電話、電話、えーっと、
あれ?
電話?
―……ああ、そうだった。
不意に思い出した私はソファーの上に無造作に転がっている携帯電話を手にする。
翼はどうして出ないのかと聞いてきた。でも私は出るか出ないかの問題以前に君たちの着信履歴すら知らない。何故なら画面は真っ暗。灯りが付く気配はない。まず―――――――――携帯の存在すら忘れていた私を許して下さい。
君達が来てから携帯電源の存在をすっかり忘れていた。勿論ブッチしていた事も。
何度画面を見ても携帯電話は相変わらずOFFにされたまま。
こんな事ならさっさと電源を入れておくんだった。
「電源いれるの忘れてた。てへ」
ギュウッと携帯電話を握り締める。ペロッと可愛く舌を出してコツンと拳を頭に宛がった。可愛いさで許しを請おうとしたが――――――――――ソファーに押し倒された。
「犯す」
「うぎゃああああああああ」
「テメーはいっぺん調教し直したほうがいいぜ」
「うぎゃああああああああ」
「さっきからうっせえわブス!」
「うぎゃああああああああ。どおおおおけえええええ。いぎゃあああああああ。穢れるうううう」
隣に座っていた翼に押し倒された。反転する視界に怪獣の鳴き声のような声で叫ぶ。そうしていたらジタバタと暴れる私の身体が急に宙へと浮いた。
「お?」
ひょいっと持ち上げられた身体に首を傾げる。