こうして僕らは、夢を見る





その呟きを聞いた翼が鬼の形相で腕を捻り上げてくる。籃君は腕を離して痛みに悶える私を笑いながら指差す。このドSども……!





「痛い痛い!お、折れる!」

「なにが“何”だよ。こっちからしたらテメエのほうが“何”だ。聞きてえことは事がある」

「わ、わかった!」

「わかってねえだろ」

「ぎゃああああ!痛い!痛い!」





お、折れる!まじで痛い!止めてくれ!か弱い女の子に何てことをするんだ!それで男!?スポーツマンとして有るまじき行動です!裁判官!カンカンって鳴らしてください!裁決は有罪いいいい!





「ぐぱぱぱぱ!アタイの1人勝ちじゃい!てやんでい!見たか!?ミトコンドリア!」

「………」

「ぐおおお…」





い、いてええええ……!





「ククッ。お姉さんぜってえ馬鹿だろ。まじ天然記念物だわ。貴重すぎる女じゃね〜か」

「ぐぬぬぬ。み、見てるだけなら助けてよおおお籃きゅんっ」

「ん〜。キスで交渉成立〜」

「OKベイベー!」





こらああ!私の口!痛いからってなんちゅう交渉しとんじゃ!キスなんて出来るか!蕾ちゃんの唇は易々と触れて良いもんじゃないんだから!て言うことで交渉炸裂!これでサヨナラだよ籃きゅん!



―…ぐあああああ!



OKした途端。これ以上ないくらいに力を込める翼に昇天しそうになる。女なのよ!私にGirL!か弱き乙女に酷い仕打ち!





「は、離せ!」

「キスだァ?そんな欲求不満なら俺様がしてやるよ。べろんべろんに骨の髄まで酔わせてやる。腰が砕けるまで喰ってやる」

「けだものおおおおお!」

「ハッ獣だァ?上等だ。いますぐ舐め回して俺無しじゃ生きていけねえ身体にしてやる」

「つけものおおおおお!」

「いやいや。お姉さん“獣”から“漬物”に変わってっから。もうちょい冷静になりましょうぜ」





漬物も獣も一緒だ!



結局は下手物なんだからっ!



それより、や、止めてくれ!耳元で囁くな!



耳元で艶っぽい声を出して舌舐めずりをする翼の瞳はギラギラしている。翼のギラついた瞳に私は身震いして腕を振りほどいた。



け、獣!食べられちゃう!





「お前も望んでんだろ?」

「そんなバナナ!あ。間違った。そんな馬鹿な!眼科行きなよ!私のどこが望んでる!?」

「格好」

「はひ?」

「だから格好」





徐々に翼の視線が下にずれる。その視線の跡を追えば―――――――――ブルーのドレス。明らかに格好が普段着ではない私をマジマジと見てくる。



このとき心底後悔した。ドレスのままで居たことに。アポイントメントがあったら私はパジャマ姿だったのに。





「テメエは本当に“何なんだ”」





先ほどの私と同じ言葉を遣う翼。あからさまに皮肉な言い方。私は怒るどころか内心は焦っている。訊問される秒読み寸前で。



左隣から籃君もジーッとこちらを見つめてくる。なんだか居心地が悪い。嫌な冷や汗が頬を伝う。





「だいたいお前は何でそんな格好してんだよ」

「趣味?」

「水死か爆死を選べ」

「すみませんでした」





即座に謝る。目がガチだ。





「俺は結構そそるけどな〜」

「ならこれで良いじゃん」

「でもあのオッサンと居たときも似たり寄ったりな格好してような気もすんだよ」

「………」

「あの夜お姉さん善く無視してくれたじゃねえの?」

「……あは、」





ニコニコとする籃君の笑顔はどす黒い。威嚇するような笑顔に頬が引き攣る。怖いぜ籃きゅん。



ゆっくり指が頬を滑る。



そしてそのまま首を掴まれた。





「……俺さ〜、けっこう」





首を掴む手に軽くギュウッと力が籠められる。



このとき思った。



真面目腐った瞳をする籃君を目にしながら。





「嫉妬深いぜ?」





―…………このまま絞め殺されてしまいそうだと。
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