こうして僕らは、夢を見る
「はは。じょ〜だん」
「……」
パッと首が解放される。笑う籃君だけど私は全く笑えない。
ゆっくりと首に手を添える。司くんは崇に。籃君は鷹見沢さんに。"嫉妬"していたらしい。
人の感情は不気味だ。行き過ぎると恐ろしい。いま本当に絞められるのかと思った。軽く力を籠められただけなのに。悋気は怖い。
私は顔に恐怖を滲ませる。そしてヘラヘラ笑う籃君。そんな籃君の行動に見て呆れたように溜め息を吐く翼。なんてカオスな図。
恰も波間に漂うような感じ。恐怖や焦りと動揺でゆらゆらと。澱む雰囲気のなか――――――‥
「……あった」
彼らの存在を思い出す。
すっかりと忘れていた彼ら。
静か過ぎて居ることすら忘れていた。逆に私達が静かになった事で涙君の声が部屋に浸透。そうして漸く思い出した。彼等の事を。
「本当?」
「……うん。ほら」
司くんに何かを渡す涙君。
周りには楓君と朔君。
そしてひっくり返されたバッグ。鞄の中の入っていた私物が無造作に床に散らばっている。
「……ん?」
首を傾げた私は再度、彼等を凝視する。床に座り込み何かを探している様子。周りに散らばっている物は明らかに私のだ。それも白のバッグの中に入っていた物。
あれ?涙君の長方形の紙って―――――……
「あ。やっぱり。涙ナイス」
「ああ?“ろうじ”?」
「楓。“ROUGE”だ。これぐらい読めるようになれ」
「………馬鹿だし無理」
「う、うっせえよ!涙も似たり寄ったりだろ!?偶々英語が苦手なだけだ!第一生粋の日本人だから英語なんか知るか!国外に行かなきゃ済む話だっつうの!」
――………冷水を打ちまけられたかのように冷える頭。
「―……へえ。"ROUGE‐雅"」
「っ司くん!」
司くんの呟きを聞くと即座に突っ込みを入れて近寄る。0.5秒でソファーから下りると0.5秒で4人の輪に乱入。約1秒で全てを把握したワタシ。慌てて司くんが持っている名刺に手を伸ばす。
「返して……!」
「嫌」
「本当にお願い!返して!」
懇願しながら手を名刺に伸ばすがヒョイと軽々避ける司くん。それは仕事で遣う名刺。絶対に見られたく無かった。でも鞄を漁られたことでバレてしまった。
瞳に涙が溜まる。いったい今日だけで何回泣いているのか分からない。涙脆いのか涙が滞る。
ガツンと鈍器で殴られたよう。
「何で泣くんですか?」
「……っ泣いてない」
「泣いてるじゃないですか」
「泣いてないってば!」
司くんを睨み付ける。こんな真っ正面から睨み付けたことなんて初めてかもしれない。唇を噛み目に角を立てる。
「なにか疚しいことでも?」
「……っそれは」
「ああ。ホステスだから?色んな男と枕を交わしてきたとか?翼達に逢った夜も営業ですか」
「そんなことしてない!勝手な事言わないで!っ違う!鷹見沢さんとはそんな関係じゃない!」
「ハッ。どうだか」
「っ確かに接待はするけど体の関係を持ったなんて居ない!これ迄も今も此からも!」
「"此から"が有る限り無駄です。どうせ快楽が得られれば誰でも良いんですよね?」
「……っひど…いっ」
私を蔑み嘲笑う司くんに涙が滴る。
部屋には私の啜り泣く声が響く。掌で顔を覆い肩を震わせる。声を抑えることもなく涙する。
だから知られたくなかったんだ。こんなこと言われるかもしれないと思ったから口を紡いだのに…っ
も、やだ、
いやだ。なにもかも。
―………ほんと嫌になる。