こうして僕らは、夢を見る
「かえ、て」
重苦しい口を開く。捻り出したように低い声が出る。ギュッと自分の髪を鷲掴みにする。目から溢れる涙に耐えながら叫ぶ。
「もう帰って!」
部屋中に私の怒鳴り声が響く。
「どうせ司くん達には分からない!分かって欲しいなんて思わないから!テニスでも何でもして来れば!?」
嘘っぱち。そうやって私は嘘を吐き捨てる。本当は分かって欲しい。ただの皮肉。テニスをする皆が羨ましいだけ。男の人に寄り添う自分が醜く思えただけ。あの頃に戻れるなら戻りたいと思った。
どこから道が外れたんだろう。
ぐちゃぐちゃな人生。
顔も涙でぐちゃぐちゃ。
「………っふ……くっ」
泣きじゃくる私を尻目に司くんがテーブルの上に置いてあったライターを手にする。いったい何をするのかと目で追えばカチカチと火をつけた。ゆらゆらと揺れる焔。そしてその焔(ほむら)を―――――――…
「…………え」
名刺に宛がった。
点火された名刺はメラメラと燃える。
クシャクシャと一気に皴くちゃになり紙が縮まる。徐々に縮小される紙は次第に灰になった。
「………な、に、して」
なに?なにがしたいの?
灰になった名刺を凝視する。司くんの掌には何もない。あった筈の名刺は燃やされた。愕きのあまり涙は止まっている。頬には涙の痕が虚しく残されたまま。
「………これは劣情の焔だと思ってください」
ライターを弄りながらそう言われた。先ほどから司くんの表情は変わらない。ずっと眉を顰めたまま。一向に表情は晴れない。
「……腹立つ。ほんと腹立つ」
「つ、かさ、く」
「なんでホステスなんですか、」
晴れない顔でジッと見つめられる。司くんの真意が分からない。何が言いたいのか、何がしたいのか。弄られるライターの焔が付いたり消えたり。司くんの焔は付いたまま。消える気配はない。
「ホステスの方が皆"そう"だとは思いませんよ。職ですし。それに誰が何をしようが興味ない。ホステスを蔑むつもりもないです」
「さっき枕をって、」
「何も本気で思ったわけじゃない。ただ蕾さんが―――…」
カチ、とライターが音が鳴る。
ユラユラ焔が燃え上がった。
「他の男を持て成すことを考えただけで腹が立つ」
劣情の焔が司くんの瞳に点る
「わ、たしのこと、嫌いじゃ」
「何を言ってるんですか。嫌うわけないですよ。どちらかと言えば嫌いなのは蕾さんに求愛する男。それはもう呪いたいくらい」
「わたしホステ、スだよ?」
「だから何ですか?」
「醜く、ない?知り合いでもない男性に人形みたいにニコニコして。それでお金貰うなんて気持ち悪いじゃん…」
「醜い?」
訝しげに呟いた司くん。ライターを放り投げると私の前に屈んだ。膝をつくその姿は王子様のよう。涙に濡れた頬を拭い、ソッと頬を撫でる司くんは微笑した。
「綺麗ですよ」
優しい声色でそう言った。しかし一変「やっぱりムカつく」と呟かれた。いまの司くんは情の変化が激しい。コロコロ態度が変わる
「貴女を綺麗にしてるのが他の男だと言うことが憎い」
「…つか、さ」
「俺がこの手で艶を出させたい」
司くんはツー……と顎のラインに指を伝わせる。
「俺に抱かれてみませんか?」
「寝言も大概にしろ」