こうして僕らは、夢を見る





朔君が私の頬を伝わせていた司くんの手を叩き落とす。呆れた表情に呆れた声色。心底司くんに呆れている朔君。





「いい加減にしろ」

「邪魔しないでくれる?」

「嫉妬も大概にしろ。お前は自分が蕾さんを泣かせたという自覚があるのか」

「………」

「もう少し言葉を選べ」





キツめの口調で司くんを咎める。不愉快気味に視線を落とす司くんを見て朔君がまた溜め息をつく。きっと司くんは人に指図されるのが嫌いなんだと思う。普段纏める立場に居るためプライドも高い。





「……ごめんね」




ボソッと小さく呟いた。司くんを加護するわけじゃないけど色んな意味で謝らなきゃいけない。謝るよりも言いたい気持ちがある。





「翼」

「……んだよ」





これまで始終無言で会話を聞いていたためいきなり話を振られた事で僅かに驚いている。「電話に出ろ」ばかり翼は言っていた。携帯は何日間も電源を落としたまま。考えれば入れる機会なんて幾度となく合った。でも携帯を見るたび目を反らしていた。





「電話出なくてごめん。故意だよ。わざと電源消してたの」

「―……なんでだよ」

「言い訳が……見つからなかったから」

「俺はそこがわかんね〜わ。何で言い訳する必要があんの?素直に教えてくれりゃあ良いじゃん」

「違うよ籃君。そんな事が出来たら疾っくにしてる。素直に話して今頃この話は終わってるよ」





もし軽蔑されたらって考えるだけで1歩が踏み出せなかった。嫌われるかもしれない。突き放されるかもしれない。それが私は怖かった。すごく、怖かった。





「…みんなが羨ましい。大好きなテニスが出来て。毎日が薔薇色で。前途多難な私とは違う。漠然とした未来が私は不安で堪らない。目標も夢も追い求めるものが無いから何をどう生きたらいいのかが分からない」





それをずっと高2のときから考えていた。分からない答えに悩み続けた。反転した世界に戸惑った。一気に世界の色が変わり私自信、“私”を見失っていた。気付けば純粋で無垢で直向きだった“私”は消え失せていた。そんなとき――――――…





「出逢ったの」

「俺達にですか?」

「うん」





初心に返った気分。まるで初心に返らされたようだった。忘れかけていた直向きな蕾を思い出す。



遣るときは全力投球。でも逃げるときは逃げる。逃げ出したくなる日が何度もあったけど、その度に1人で這い上がった。些細な事に一喜一憂する。悩み続けた事なんて無い。『成せば成る』それが癖のように口にしていた“美空蕾”



それを思い出した途端に蟠りが消えた。皆と過ごす度に薄れていく胸の痼り。



変な事で笑って、下らない事で喧嘩して、些細な事で論争になって、疲れる毎日、だけど平凡な毎日、そして有り触れた日常、この繰り返される生活に、




「―――…こんな毎日も悪くないかもって思えた」





思った、



思ったからこそ、



いつしか嫌われる事に恐れて1歩引いて歩くようになっていた。







醜い嫉妬や情緒不安定な心のうちを明かす。相変わらず携帯電話はOFFにされたままだ。



そして何を思ったのか、司くんが満足気に微笑んだ。





「それほど俺の事が好きってことですよね」

「履き違えんなポジティブ」

「俺達の間違いだろう」





冷静に翼と朔君が突っ込みを入れた。司くんはどこから何処までが本気なのか分からない。冗談か本気なのかが分からないから反応に困ってしまう。
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