こうして僕らは、夢を見る
「私を嫌いにならないの?テニスをしてる皆を憎たらしく思う最低な女だよ?電話に出ない女だよ?いつまでもウジウジしてる蛆虫な干した女だよ?」
薄らと瞳に涙が張る。自分で言ってて悲しくなってきたよ。だけどそれ以上に皆の目が優しすぎるから、涙腺が緩んでしまう。
ゆっくりと司くんはスゥ―…と私の髪に指を通した。寝癖をとかすように行き来する指。その手付きに涙が零れそうになる。優しすぎる。優しすぎるよ。瞳も手触りも―――――――包み込んでくれるような優しさ。
「全部引っ括めて、蕾さんの事を愛しますよ」
そう言い口元を綻ばせた。
蛆虫の私を愛すと言った司くん。物好き過ぎる。こんな面倒臭い蛆虫を愛すなんて。ポンコツは扱い辛いんだからね。
「……きっと後悔するよ」
「後悔するときは蕾さんが俺の傍から離れたときです」
「……ほんと、物好き…っ」
「また泣くんですか?」
とうとう瞳から涙を溢れ出させる私に呆れたような声。でも慈愛に満ちたような眼差しを向けてくる。頭を撫でくる司くんの肩に顔を埋めると抱き締めてくれた。
あったかいな
「また司かよ…」
「あれ〜俺いまスゲーこと聞いたじゃねえの。ツンデレ代表の楓が拗ねる瞬間を見ちまったぜ。間近かでデレが見られるとはね〜」
「俺もだ。確かに聞こえた。録音していなかったのが心残りだ」
「なっ!違う!いまのは…っ」
籃君と朔君に何かを言われて吃る。きっと顔は真っ赤なんだろうな。司くんの肩に顔を埋めてるから分かんないや。それにしてもこうしてると段々眠たくなってくる。
人肌に触れてウトウトし出した。いまにも夢の中に旅立ちそうな私――――――――の腕を引っ張るのは涙君だった。
「ん?」
「………テニスしよ、今度」
テニス?と首を傾げる私に涙君が頷いた。
「でも私―――…」
「お〜。涙良い案出してくるじゃねえの。なら蕾ちゃんスカートでよろしく〜。生足みてえわ」
「なっ、馬鹿か!スカートなんかでテニスが出来るか!ジャージに決まってんだろ!長袖長ズボンが鉄則だ!生足なんか曝すな!」
「小姑か。ギャーギャーうっせえわ。だいたいジャージとか萎れる。色気ねえだろ」
「蕾さんがラケットを持つと怖いと思うのは俺だけなのか」
「生憎朔だけじゃないよ。俺も怖い。怪我しそうで」
「馬鹿が。どんだけ司はお気楽なんだよ。アイツが怪我するどころか此方が怪我させられちまうわ。ラケットが手から擦り抜ける光景が容易く想像出来る」
私は伏せ目がちで成される会話を聞く。テニスか……。したいけど私の話を聞いた後なのに誘う皆の真意が不確か。運動出来ないのに。それを知りながら誘ってくる。どうしようかな――………。
「お、お前のペースで遣ればいいんじゃね?」
そっぽを向きながら楓君が言う。真っ赤に染まる耳。寧ろお前なんかに出来ねえよ!て笑われるかと思ったのに。迷う私をフォローしてくる。きっと皆はテニスの良さを私に教えようとしてくれてる。――――――生憎だけどテニスは嫌いな訳だから悩んでる訳じゃない。ただの皆への嫉妬。
彼等なりの励まして"へ"の字にしていた口元が緩む。
「……ポンコツな私なんかに出来るのかな?テニスが」
自信はないけど少し遣ってみようかな?打つだけとか。ポンコツもポンコツなりに頑張るよ。肯定な意を呟いた私に彼等の顔が綻ぶ。
「まぁ精々可愛がってやるよ小豚ちゃん」
「涙君宜しくね?」
「…うん」
「無視すんじゃねえよ!覚えてやがれ。こてんぱんにしてやる。びしびし扱いてやるからよ」
「絶対嫌だ。翼はスパルタっぽいしコーチとかは向いてないって。お遊び程度なんだから気楽に遣ろうよ」
「そうそう〜何なら俺が教えてやるぜ?手取り足取り身体に刻み込んでるから覚悟しとけよお姉さん」
「うん。テニスするの止めるよ。何だか身の危険感じてきたから。色んな意味でテニスは危険だ」