こうして僕らは、夢を見る





遠い目をする私を尻目に、楓君が時計を見ながら呟いた。皆が来てから針が幾度となく回転している。15時を少し回った今。





「つうかもう3時だし」

「ど〜するよ?これから」

「DVD飽きたしゲームで良いんじゃねえ?」

「帰りなよ」





なに?"これから"って。家に残る選択義があることに吃驚だ。私的に今日は疲れたから帰って欲しい。しかも時に翼。ゲームは自宅でするもの。他人の家でするもんじゃない。ち、ちょっと!漁るな!



ガサガサガサと私のコレクションの1つでもあるRPGを翼が漁り出す。やめろ!私の同胞達に気安く触れるな!――――――因みにRPGに嵌まったのは病院生活のとき。暇な時間をゲームに費やしてるうちにRPGマニアになってしまった。SWORDを装備してパーティーしてるよ。





「うお!お、おまっ、こ、これ!白銀のディカプリオだと!?初回プレミアムじゃねえか!?どこでこれを…っ!」

「フッフッフ。その価値が分かるとは楓君もディカプリオ様のファンだな?ディカプリオ様に逢うため店頭販売時間の彼此12時間前から並んだんだ!」

「う、嘘だろ!?俺は3時間前から並んで手に入らなかった!お前が12時間!?半日とか有り得ねえ!どんだけ辛抱強いんだよ!」

「学校サボって店先に並んだよ。次の日補充だったけど。ディカプリオ様のSIDEストーリーだから心に刻み込まれる咄だった…っ!」

「ゆ、譲ってくれ……」

「嫌」

「く…っ!」

「―…貸すだけなら良いけど」

「ま、まじかよ!?」





楓君がガッと肩を掴んできた。私に触れるなんて初めてかもしれない。でもまさかRPG況してやディカプリオ様ファンが間近に居るとは思わなかった。ディカプリオ様は孤高の士。通称白銀。脇役ながらマニアの中では圧倒的人気を誇るだ。楓もその1人。





「うん。期限内には返してね」

「サンキューっ、蕾」

「……っ」





いま――――…





「まさかこんなところにディカプリオのゲームソフトを持つヤツが居たとはな〜。ラッキー。帰って遣りてえわ。濱口でも持ってねえ優れもんの癖に蕾が持ってるとは。自慢してやるぜ」

「オメーらの会話がマニア過ぎてついてけね〜わ」





私は目を見開き口元に手を宛がった。驚愕する私に楓君は気がつく気配はない。ソフトをジーッと見つめ終始笑顔だ。吃驚。吃驚だよ。だって楓君いまは―――――――――私を名前で呼んだよね?



初めてだ。名前で呼ばれるのは。きっと無意識。RPGの力は偉大だ。ディカプリオ様の魔力かもしれない。人を素直にさせる魔の力が楓君に宿ったんだと思う。



不意討ち過ぎる名前呼び。それは凄まじいダメージを私に与えた。口元から額に手を添える。やばい。クラクラする。不意討ち過ぎ。こんなの卑怯だ。





「ここはRPGの宝庫かよ。何でこんなにあるんだ。白銀のディカプリオとか訳わかんねえし。どこが良いんだかサッパリだ」

「翼!風呂に薔薇浮かべる暇合ったらちょっとはゲームに嵌まってみろ!因みに俺はLEVEL94のスライスを相棒としている」

「いや〜今回は翼に1票。まずスライスとか言われても何のゲームなのか分からね〜し。スライス?スライスハムか?俺は厚切りハムの方が好きじゃねえの」

「……生ハムのほうがすき」

「俺は裂けるチーズだ」

「もはやハムの域じゃねえだろ。だが朔に1票。チーズ派だ。因みにチーズ入り蒲鉾が好きだわ」

「馬鹿にしてんのかテメー等!スライスを馬鹿にすんじゃねえよ!LEVEL94にするまで時間を何れ程費やしたと思ってんだ!?因みに北海道産牛乳使用のレアチーズケーキが好きで悪いか!?」

「オメーは濱ちゃんと関わるようになって随分性格変貌したな〜」





ボーッと5人の見て会話を耳に入れる。何だか会話するたびに話が逸れつつあるのは普段から。TVの前で屯している5人は興味深くコレクション達を見ている。その中心人物は楓君。心無しかテニスをしているときより生き生きしている。気のせい?



そして私の隣には司くんが居る。いつもこんな感じ。司くんは1歩引いて見ている。あまり輪のなかには入らない。私が入らないときは尚更。大人だ。さすがドン。



司くんは皆に聞こえないように耳の側で囁くように言った。





「陸上が駄目なら違うことを探しましょう。大切なものが、きっと見つかる筈ですから」





本当に一体ワタシは何れだけ気を遣わせれば気が済むのだろうか。とことん司くんや皆に気に掛けて貰っている。だけど嬉しい。でも複雑。申し訳ない。だけどやっぱり嬉しいんだよね。大切なもの?





「大切なものならあるよ…」





司くんを見てフワッと笑みを浮かべる。陸上は大切。でもそれ以上に家族も友達も玲音くんも大切な存在。何も深く悩むことなんてない。簡単なこと。支えがあるから此処までこれたの。ゲームのことで口論する楓君達を尻目に――――――――ハート型のクッションを掲げて私は含羞んだ。








「みんな“大切”」



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