こうして僕らは、夢を見る
思いっきり翼の頭を叩いて話を中断させた朔君。私はコツンと軽く小突かれただけ。なんて優男!優しい朔君に胸に打たれたよっ
「騒がしい。見ろ。注目の的だ」
そう言う朔君に漸く気付く。周囲の人が此方をチラチラと見ている事に。微かに笑い声も聞こえる。
それに恥ずかしくなった私は直ぐに司くんの横にスス―……と移動する。犇々と突き刺さる視線から逃れるように。
「ククッ。大丈夫ですか?」
「……笑わないでよ〜」
「鯨と鼈で言い合うなんて可笑しいですから」
声を圧し殺して司くんが笑っている。確かに一理ある。こんなとこでギャーギャー言い合えば注目の的だ。人が密集してるなら尚更。事の発端は私の飛び蹴りからだ。でもさ?私は悪くないよね?
「翼はもう少し改心しろ。水族館は魚を見るところだ。お前が悪い。子供の夢を壊すな」
「正しくその通り!朔君よく言ったね!翼はもう少し考えを改める必要がある!」
「お前に言われたかねえわ。河豚みてえな顔しやがって」
「はあ!?誰が――――――――――っふが!」
言い返そうとすれば後ろから口元を押さえられた。
話せずに「ふがふが」と口籠り、暴れる私を押さえ付けるのは司くん。後ろから抱き締める形で押さえ付けられる。
「これ以上は駄目です」
“静かにするまで、離しません”
そう言われた私は何度も首を縱に振る。いますぐにでも離して欲しい。暑いんですけど!密集した肌に体温が上がる。それが暑さからか、それとも羞恥からかは、解らない。とりあえず暑かった。
「あぢ〜。どうでも良いけど、涼しい場所に行こうぜ〜」
「……俺も暑い」
「………」
無言なのは楓君。暑さに遣られたのか噴水の縁に寝そべっている。その横で籃君と涙君が噴水の縁に座っている。
「あ、リンゴジュース」
「…いる?」
「いいの!?」
「…うん。あげる」
涙君の飲んでいたジュースに目がいく。リンゴジュースが途轍もなく美味しそうに見える。目を輝かす私に涙君はパックを差し出してきた。
「ありがとうー!」
直ぐさま涙君に近寄る。噴水の縁に私も座るとパックに刺っているストローに唇を宛がった。
チューッと吸い上げると林檎ジュースが喉を潤す。う、美味い!
「…あげる。ぜんぶ」
「ほ、ほんとっ?」
「…うん」
その言葉に再度「有り難う!」と言うと林檎ジュースを飲む。
鼻唄混じりに足をブラブラと前後に動かす。林檎ジュースが飲めて上機嫌な私。しかし機嫌が直ったのは私だけ。他は暑さと人混みに苛々が募っている。ピリピリした空気を尻目に私は暢気にジュースを飲む。