こうして僕らは、夢を見る



















織姫星(ベガ座)



ベガは七夕祭りの織姫星として知られている。彦星のアルタイルとは1年に1度、7月7日の七夕の夜にしか会うことが許されないという可愛そうな夫婦。



――……傾斜型の座席の後方に座る私は頭を捻る。



夢のない話だけど織姫星と彦星の距離は14.8光年も離れてるから光の速さでも片道に14.8年も掛かる計算になる。実際はかなりシビアな世界だと思った。



背凭れに寄り掛かり真っ暗な天を仰ぐ。真っ暗のなかに輝く光は迚も幻想的で魅了させられる。思わず吐息が溢れてしまう。



七夕伝説のとおり織姫星(ベガ)は夏の天の川の畔にあって彦星(アルタイル)の対岸に位置している。



1等星ベガの近くに3等星と4等星とで構成された小さな平行四辺形が見える。1等星の少し上にあるから特徴的だなー…




【ギリシャで一番の音楽家オルフェウスが奏でた琴だといわれています】




「うおっ」

「―…チッ静かにしろよ」

「ご、ごめん」




あまりに星座に魅入り過ぎてしまい解説してくれるアナウンスの声さえ耳に届かなかった。ふと気を抜けば突然耳に入った声に驚いて座席から擦り落ちた。



翼に睨まれ慌てて座り直し、声を出さないように口を紡ぐ。








【ベガは夏の夜空で最も明るく輝く1等星なのですぐに解ります。ベガの明るさは0.0等星ですので普通の1等星よりも1ランク、明るいことになります。夏の星座の星は何れもベガより暗いですので夏の夜空の一番星はベガということになります】





さすが夏の星座の最輝星。





【高度が最も高くなった時には頭の真上で輝いて正に夏の女王らしい趣がしますね】





明るく弾むようで僅かに笑いが含まれた声。解説アナウンスに私は目をキラキラさせると輝くベガを食い付くように見つめる。





「じ、女王………っ!」





なんて良い響きなの!



織姫に成れるかな?織姫の他にも棚機(たなばた)織女(たなばたつめ)織り子星(おりこぼし)と名前が多い。なら1つくらい名を貰いたい!健気に時が経つのを待つ織姫様に成る!輝きを放つときは麗しの女王。夏の夜を支配する1等星。素敵過ぎる称号だ!



私の呟きが聞こえていたのか翼が空を見上げながら呟いた。





「なら俺様は帝王だな」

「女王やーめた」

「宇宙人の生け贄にするぞ」

「なら女王になる。翼は2頭身のミニマムな妖精ね。私がポケットに入れて持ち歩いて上げる」

「可愛い妖精になるくらいなら巨人になるわ。恐怖政治で街を牛耳ってやる」

「なら私は街を救う英雄になる。弓を持ちペガサスに乗って天空を又に掛けて見せるよ」





いつの間にかファンタスティックな話に。でもあまり互いに聞いていないかも。夜空を見上げたまま小声で掛け合っているから。





「ベガはアラビア語でアル・ナスル・アル・ワーキって呼ばれてて落ちる鷲を意味するの。対照的にアルタイルが飛ぶ鷲を意味してるみたい。なんかいいよね」

「へえ―……」

「こと座とわし座を合わせて二羽の鷲だよ」

「何でそんな詳しいんだよ」

「何でって昔学んだからに決まってんじゃん。インプットされてるのを引き出しただけだよ」

「漸く、今になって初めてお前が歳上だと実感した」

「だてに翼より歳食ってないよ」





温和に返せるのはきっと、綺麗な光りに導かれるように視線が奪われているから。こんな綺麗な空の下に居ると怒りたい気持ちも消え失せる。



夏の大三角とベガ



ベガは、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブとともに、夏の大三角を作っている。



冬と春にも大三角はあるけど濃い夏の天の川を背景にした夏の大三角は1番優雅で華やかなものかもね。星の色が3つとも白っぽい色をしていて美しすぎる。



魅せられワタシはポーッと幻想的な空間をただ、見つめた。
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