こうして僕らは、夢を見る



ロマンティック過ぎる星空に興奮している私は止まらない。右隣にいる楓君の肩を掴むと興奮気味に話し掛ける。





「そう思わない!楓君!?」





同じくプラネタリウムに期待を抱いていた楓君。期待は僅かどころか基準値を遥かに上回った。高ぶる気持ちを分かち合おうとしたが―――――‥









「ぐがぁあぁぐがぁあ」





鼾を掻いて寝ていた。





「か、かえでクン?」

「ぐがぁぁぐがぁああ」

「………」





毛頭起きる気配もない。専ら星座に集中していた私がバカみたい。当日チケットを買ったときカウンター貰った楓君のパンフレットは靴の下。無惨にも自分のパンフレットを自分で踏みながら寝てる。



プラネタリウムに興味があるとか言いながら寝ちゃったよ。だけど物凄く暗いし眠気が誘うから無理はないのかな?私も時折睡魔が襲い掛かる。



心地好く寝ている楓君の肩から手を退かせる。そして少し浮かしていた腰を座席に戻した。



背凭れに寄り掛かりながら左側に視線を移せば―――‥









「………」





意外と真面目に見ていたのは翼のほうで驚いた。ジッと真剣に天を仰いでいるのを見た私は目を見張る。そしてユックリと私に視線を移した翼と目が合う。



暗い空間のなか星の光りが唯一の明かり。薄暗い空間だけど座席が近いから翼が良く見える。目が暗闇に慣れてきたせいもある。



そして突然。翼がフッと笑ったかと思えば私に告げる。







「俺がお前のペルセウスになって遣るよ」





―――――は?





決まったと言わんばかりの表情。明らかに自分の台詞に酔ってる。幻覚だけど薔薇が宙を舞っているような気がした。



ペルセウスはアンドロメダを助けた英雄。翼がペルセウスなら私がアンドロメダ?私を護る役目をするってこと?―――――‥蟠りが拭えないのは何故だろうか。



自信満々な表情に台詞。どうも、自然に出てきた風には見えない。念入りに試行錯誤を繰り返した後の自信100%さ。



そして不意に気がつく。



手に解説の掛かれたパンフレットを持っている事に。



―…ああ納得。きっと翼はパンフレットのアンドロメダ姫の御話を読んだんだ。じゃないとペルセウスとアンドロメダの関係を知る筈がない。私のペルセウスに成るなんて言えない。それが冗談なのか本気なのかは定かではないが、



少し意地悪をしてやった。



悪知恵の働く私の頭。きっと星座を見ながらパンフレットを読んでいたはず。でも熟知し尽くした私の記憶には叶わないよ。年と経験の差だ。大人気ない常日頃の仕返しを込めた意地悪。





「あらそう?なら私の生け贄になってね。愛しのペルセウス」

「は?生け贄?」

「愛する者のために自らが生け贄になる事を選ぶ愛しのペルセウス。なんて哀しき運命なの…」

「は!?」





翼はバッとパンフレットを見返す。こんな暗闇の中でよく事細かな文字が読めるなと感心する。忙しない翼には悪いけど嘘だよ。彼は正真正銘、英雄。自らが生け贄になる悲劇どころか、化物退治をしてお姫様とハッピーエンド。毫もあっさり騙される翼に拍子抜け。



左隣に座るのはブツブツと解説を復唱する翼。右隣に座るのは鼾が五月蝿い楓君。何方も五月蝿い。ややロマンチシズムなワタシ。神話に心を惹かれるものの、ふと我に返れば五月蝿い現実。



初めてのプラネタリウムは大層皮肉な結果と成ってしまう。星空の世界に誘(いざな)われる筈が肩の荷が張る。安らげてリラックス出来るプラネタリウムがストレスの溜まり場と化した。



―…次は絶対1人で来ようと星座達を見ながら密かに誓った。
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