こうして僕らは、夢を見る

























「―――ふう。お腹いっぱい」





息を吐き捨てながらお腹を擦る。ぷてッと膨らんだ腹の中には寿司達。まさか回転寿司でこんなに食べるとは思わなかった。



調理された可哀想な魚達は私が美味しく平らげた。一貫105円は安い。でも味は確か。近頃の回転寿司も捨てたもんじゃない。頻りに薄笑いを浮かべる私に翼が言う。





「食い過ぎだデブ」

「デブじゃない!まだ肥満症じゃないからセーフ!ポッチャリ系って言ってくれる?」

「ぼっちゃり」

「なんかいま水に浸ったけど!?“ぼちゃ”じゃない“ぽちゃ”!ここ重要だよ!テスト出るから!赤マーク付けておかないと!」

「ぼっちゃり」

「ぽっちゃり!」

「どっちでも良いですよ」

「うおっ」






いきなり襟首を司くんに引っ張られた。強引に翼から引き離される。危うく口から食べた寿司が出てきそうだった。



――…い、意外と乱暴なんだね?吃驚したよ。でも“ぽっちゃり”か“ぼっちゃり”かは重要だよ。私の沽券に関わるから。





「むぅ。私はぼっちゃりじゃないのに〜。ぽちゃぽちゃだもん。ズボンのウエストもキツくないし!ねえ。司くんもそう思わない?」

「ぽっちゃりでもぼっちゃりでもないです」

「なら何?肥満?」

「ロリッ娘アイドル」





はあ………!?



目をひん剥く。



いきなり路線変わったよ!?体型の話から見た目になってるよ!?しかも喜んでいいのか悪いのか分からない。際疾いよ。ロリータ?既に成年を過ぎましたが?





「ロリータ?黒地に白レースのスカートに黒とか白のブラウスを合わせるスタイルだよね?おえっ!吐き気してきた。そんなキュートスタイル私には無謀だよ……」

「それはゴスロリ。俺が言ってるのはピンクや花柄を基調とした甘ロリ。蕾さんに黒は微妙です」

「どっちでもいいよ!ロリータじゃないし!白よりも黒!黒よりもピンク!ピンクよりも水色が好きなの!花柄よりストライプ!ロリには程遠い女だから!」

「案外そうでもね〜よ」





のんびりと籃君が話に割って入って来た。



頭の天辺から爪先までジロジロと見つめ、私を見定めて来る。





「お姉さんまじで童顔だしよ〜?年齢とのギャップが良くね?歳の割に甘い顔付きしてるわ。例えるなら生クリームじゃねえの」

「してない。甘い顔って何!?て言うか然り気無く蔑んでるよね?歳の割にはとか余計だよ」

「生クリーム?苺加えればショートケーキになるじゃねえか。俺様はショートケーキよりもモンブランって感じがするけどな。栗だ。甘栗っぽい」

「モンブラン?どちらかと言えば洋菓子ではなく和菓子類だと俺は思うが。桜餅じゃないか?」

「確かに。言われて見れば納得。朔は桜餅?俺は餡だね。それも、こし餡じゃなくてつぶ餡」

「つぶ餡?白餡っぽくね?それに和菓子ならヨモギ餅に決まってるぜ。俺様の目は誤魔化せねえ」

「甘ったるさがね〜よ。ヨモギ餅よりお萩。お萩より桜餅。桜餅よりも生クリームじゃね〜の」

「だが俺は寧ろ菓子ではなく和食だと思う」

「「「確かに」」」

「どうでもいいわ変態共」





何が生クリームだ!ショートケーキ?モンブラン?桜餅?つぶ餡?こし餡?お萩?ヨモギ餅?和食?――――――――――私には違いが分からねえよ!基準値は何!?それに会話が濃い!ドン引き!



自然と顔が引き攣る。




「変態?ただの思春期です」

「お願いだから黙って……っ!」





涙が出るよ。心が泣いている。



司くんの口からそんな言葉を聞きたくなかった!まさか聞く羽目になるとは。イメージが崩れ去る。悲しくも呆気なくイメージは覆された。白馬に乗る王子様なのに!
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