こうして僕らは、夢を見る
17
いったいかれこれ何分経ったのか。既に白玉善哉和風クレープは食べ終えた。今はただ無言で司くんの隣を歩いている。
特別何かをする訳でもない、かと言って談話する訳でもない。ただ歩いているだけ。横目で司くんを見るが何を考えているのか分からない。私を見ずに何処か遥か彼方を見つめている。その蒼眼の奥に映る情景はサッパリ。
人混みから逸れた私達。大通りから小道に移った。人気も少ない。いや、大通りが多かっただけかもしれない。度々自転車に乗る主婦や学生とすれ違う。和気藹々とした幼い子達がチラホラ。
和気藹々な雰囲気とはアベコベ。私達の間に流れる空気は殺伐としている。声が無いから当たり前か―――――――そして殺伐とした空気にの中で先に声を発したのは司くんだった。
昔…――
その呟きから始まった。
「弟が事故に遭ったんです」
いきなり話出された重い種に口元が引き攣ってしまう。
「メロンパン恐怖症の子?」
私の問いに頷いた司くん。前を見据える瞳はどこか遠くを見つめている。それはきっと過去の情景。
「身の毛が弥立つ思いでした。朝笑っていた弟が、朝普通に家を出ていった弟が、死の淵に居るなんて。もうあの笑顔が見れなくなるなんて考えられなかった」
哀愁を帯びていた蒼瞳は次第に、悔しさを滲ませる。
「だけど俺が見ていた笑顔は笑顔じゃなかった」
「―……どういう、」
「虐められてたんです。ずっと俺にSOSを出していたのに気づけなかった。いつも何かを訴えようとしていたんだ。それがSOSだと気付いたときには遅かった」
歯を食い縛ると司くんは額に手を当てると耐え忍ぶように固く目を瞑った。頭痛の種は悔しさからなんだろうか?正直こういうときはどうしたら正しいのか解らない。何の言葉を掛けたら正解なのかが解らない。下手に励ます言葉よりも傷付かない言葉を探すが、やっぱり解らない。
「何ひとつ気づけなかった」
「…うん」
「俺は、兄貴、なのに」
「…うん」
「大切な弟なのに」
「…うん」
「気付いて、やれなかったっ」
「………」
強く強く強く歯を食い縛る。歯軋りが悔しさを全面的に露にさせる。何だか歯軋りの音に私まで痛くなる。司くんの表情に心が締め付けられる。
ここまで負の表情を露にするのは珍しい。悔しさを滲ませる司くんなんて初めて見た。そこに普段の余裕綽々とした面影は無かった。