こうして僕らは、夢を見る





「弟を見たときは病院でした。白い包帯が体に巻かれているのを見たときゾッとした」





その光景を思い出したのか僅かに身震いさせた。



私も入院していた時期があるから現在入院している人の気持ちの辛さで理解出来ることもある。不便な事が多いし退屈。でもささやかな楽しみもあったりした。



だけど逆の立場は解らない。私が病院に搬送されたと聞かされたときの母さんや父さんの気は汲めない。私が入院していたときの2人の気持ちも。



もちろん司くんの気持ちも、だ。





「人は脆い」

「……そうだね」

「脆く儚いから怖い。消えてしまいそうで怖い。なのに傷付け合う。傷付いて傷付けて、また傷付く。人は成長しない。学ばない」

「……それが人間だよ。心で解ってながらも傷付けて、傷付いて、また傷付ける。言葉がある限り傷付けるし、傷付く。傷付け合う事に終わりは来ない」

「皮肉過ぎる。人間は醜い」

「……そうだね」





司くんの一言一言が重い。



据わる蒼瞳に、肩の筋肉が張る。





「蕾さんの入院していた病院はこの近くですよね?」

「あ、うん、そうだよ?4番街の総合病院だった」

「俺の弟もです」

「へえ〜。凄い偶然。いつ頃に入院してたの?メロンパン恐怖症の弟君は。逢ってたりして」

「逢ってますよ」

「―………え」





司くんの言葉に足を止める。



目を見張り聞き返したけど返答は無い。私は足を止めている。でも司くんは足を止めないから、我に返ると慌てて追い駆けた。



横に並ぶと司くんを見上げるが、蒼い瞳は据わったまま。ただ一点を見つめて動かない。その一点は“過去”なんだろうな。



弟君の事を私が聞こうとする前に司くんが話出す。





「弟が入院中、その病院のリハビリステーションで、ある女の子を見掛けたんです」

「…女の子?」

「はい。俺よりと同じ歳くらいかと思えば高校生。ふと見せる表情は大人びて貫禄さえ有りました」





その言葉に眉を寄せる。高校生?―――――――私も入院していたときはまだ高校生だった。





「ひたすらリハビリに没頭してるんですよ。我武者羅に。直向きな姿に俺は惹かれた」





その子を思い出してフッと笑みを溢す司くん。





「弟の見舞いだと称してリハビリに励む女の子を影で、ずっと見ていました。でもある日小耳に挟んだ事があるんです―――――――――――‥」





次の言葉に私は目を見開く。



偶然か、必然か、それは神のみぞ知る。






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