こうして僕らは、夢を見る
そんな、真面目な瞳を向けないで欲しい。蒼色の瞳に呑み込まれそうになる。その澄んだ瞳は玲音くんにそっくり。いままで気付かなかったのが不思議で堪らない。



きっと司くんはミラージュさん似。容姿もそっくりだけど常に1つ先の事を考える頭脳派なところも似ている。血を分けた親子なんだと改めて実感させられる。



熱を帯びる瞳に囚われ狼狽える。しかし私が何か言う前に司くんに手を掴まれてた。





「うおっ!?」





手を引かれて歩き出す。なんの前触れもなく進み始めたため足が縺れるが、直ぐに姿勢を整える。





「ど、どこに行くの!?」





踏み切りから遠ざかる。いったい何処へ向かおうとしているのやら。訳がわからずとも、成されるがままに歩く。慌てて聞く私の問いに答えることはなくジーッと見下ろしてくる。





「返事は要りません」

「…え?」

「いま貰ってもフラれる事は目に見えてますから」





戯けたように言う司くん。私は眉を下げて困り果てた表情を浮かべる。きっと返事を求められていたら保留にしてたかも。


ギクシャクした関係が嫌でYES/NOを選ばなかった。どちらとも選ぶ事はせず保留。一時でも良いから多分逃げた。


その考えを察知したのか気を遣われた。自分が情けない。しかし司くんが衝撃の言葉を口にする。





「諦めるつもりは無いですから」

「え」

「蕾さんから告白してくるぐらい俺に惚れさせてみます」

「え」

「まぁ精々覚悟しといて下さい」

「………」





ポカーンとする。



え、え、え、ええ?諦めてくれたわけじゃないの?なにその挑戦状みたいな言葉。



私の右手は司くんの左手と繋がっている。右隣に立つ司くんが微かに笑うと耳許で――――‥








「骨の髄まで愛してやるよ」





そう、囁かれた。



司くんが本気だと分かった今。この囁きは凶器でしかない。深く刺さる愛の言葉に腰が砕けそうになる。繋がれた右手とは逆に左手で頬を抑える。私はこういう甘い言葉に免疫が付いていない。



苦手だ。甘い雰囲気も甘い言葉も。急に私を女にさせる甘ったるさが苦手。恥ずかしくなる。同時に自分にも恥らいが合ったんだと思った。



そして不意に“それ”は遣って来る。荻窪先生と言い司くんと言い私を泣かせるのが上手い。かといって泣きはしないけど。もう十二分に泣いたもん。
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