こうして僕らは、夢を見る
「おせ〜よ。オメー20分つってたじゃねえの。かれこれ40分は神社で待たされたぜ。楓なんか祠にビビっちまってよ〜」
「び、ビビってねえよ!す、少し神が出るかと思っただけだ!」
「そこで幽霊じゃなくて神をチョイスするところが楓らしい。だが生憎ながら神はこの世に居ない」
「……夢ない、朔」
「夢がない?居ないものは居ない。神に頼るぐらいなら自分で成し遂げる。神を信じるなど小学生でサンタクロースが居ると思っている子供と同レベルだ」
「清き子供の夢をぶち壊すなよ!サンタを信じて何が悪い!?俺は小6の頃まで信じてたわ!サンタが親だと知ったときの衝撃は今でも忘れられねえがな……」
「プレゼントはサンタから貰えるんだろ?どうせなら物じゃなくてトナカイが欲し〜ぜ。俺が大切に“トイちゃん”を飼ってやる」
「……なら、橇」
「ん〜?涙は橇?なら俺がトナカイ貰うから橇は涙のね〜。先着順だから君等にはね〜よ」
「いやいや!可笑しいだろ!?橇もトナカイもサンタから奪ったらどうやって帰るんだ!?まさかのそのまま滞在!?」
「楓は夢がね〜な。サンタは魔法が遣えるから瞬間移動で帰るに決まってるだろ〜に。何たって魔法界からの使者だから」
「ま、魔法界……!」
「禁止用語だぞ。楓は非現実的な世界に弱いんだ。特にRPG類に。魔法は禁止用語だ」
ついさっきまで一緒に居たのに、このグダグダさが懐かしい。
近づくにつれ声もハッキリと聞こえる。相変わらず収拾の付かない会話。個々の主張が強すぎるため1つに纏めるのは難しい。
「ちんたらしてんじゃねえよデブス。俺様を待たせやがって」
「ご、ごめん?」
石段に座っていた翼が立ち上がるとポケットに手を入れて此方に近付いて来る。
かなり御冠な様子。
「さっさと済ますぞ」
「は?何が?」
「は?」
尋ねたのは私なのに、逆に問い返された。
いったい神社で何をするのかと首を傾げる私を翼が凝視してくる。そして呆れたように翼は司くんに目を向けた。
「言ってねえのかよ」
「言ったよ“勝利の神様”は」
「それだけじゃねえか」
翼がハァーと溜め息をつく。
司くんは素知らぬ顔。
「ま〜。簡単に言えば願掛けよ〜。蕾ちゃん」
「もうすぐ試合が近いからな」
「試合?」
「お〜。がんばろ〜ね」
「うん。頑張ってね?」
「“がんばろ〜ね”」
「だから頑張っ―――‥」
ん?
ピタッと止まった。思考も言葉も急停止した。
しつこい籃君に頷いていたが気に掛かった言葉。
不思議がっているのは私だけだ。皆は当然のような顔をしている。“頑張ろう”じゃなくて“頑張って”が正しいよ。私は応援する側なのに。それじゃあ、まるで―――――――‥