こうして僕らは、夢を見る
困惑する私に皆は微笑した。
そして鈴と賽銭箱の前に立つ。私も司くんに手を引かれて立った。神様が祠には司(つかさど)る。いったい何を神様に願おうと言うのか。普段から彼等が神様に頼るようには到底見えない。
何故だか私は、彼等と“一緒に”頑張るらしい。彼等が私を仲間と認めてくれているみたいで素直に嬉しい。私も隣に並ぶ事が当たり前だと言うように手を引かれる。それに自然と頬が綻んでいく。
祠を見据える籃君が賽銭箱に小銭を入れると手を叩いた。
―――‥それから、やっぱり祈願に至るまでもグダグタだった。
最後の最後までカオス。
彼等らしいけど。
神様が祠に居るというのに喧しくするのは頂けないな。きっと今頃勝利の神様が御冠になってるよ?
「試合で勝てますよ〜に。こてんぱんに出来ますよ〜に。あと部活の休みが有りますよ〜に。蕾ちゃんと2人でデートしてね〜な。あと次のテスト無くしてほし〜わ。むしろ学校休校にして下さ〜い」
「なんか願いが率直過ぎねえ!?こてんぱんって……!関係のない願いが半分を締めてるし!てか籃5円の癖に願いが多い……!せめて10円にしよう!そんなんじゃ神様に無視されるぜ!?」
「うるせ〜な。楓ちゃん小姑みてえだぜ。俺は良い子ちゃんだから神様は無視しねえのよ?だいたい俺はこんな事しなくても蕾ちゃんを失望させる試合はしね〜から」
「と言いつつ100円を投げるのか?著しく成長しているな。大人に1歩1歩着々と近付いてるぞ」
「……朔親鳥みたい。籃雛鳥」
「確かに。雛鳥の成長を見守る親鳥じゃねえか。案外真面目な楓と世話焼きな朔に板挟み状態の籃には心底同情するわ」
「『勝てますように』?」
「なんで楓は疑問符付けてんだよ。聞かれても困るわ。俺様に聞くんじゃねえ。神に聞け」
「願掛けって何を願ったら良いのかわかんねえんだよ。なんか今更だし。勝利祈願とか初だし」
「『晴れますように』これが良い。青い空に白い雲。快晴が1番だからな。神なんぞに頼むは癪だが致し方ない。天気は運だ」
「オメーやっぱ捻くれてるわ〜。もう“勝利の神様”関係ね〜し。『健康で居られますよ〜に』俺は繊細だから健康祈願願っとくぜ」
「テメーは風邪引かねえから安心しな。図太い神経のテメーは繊細の“せ”の字もねえよ。100歩譲ってデブスの健康祈願は必要かもしれねえがな。もっとピンポイントの祈願はねえのか愚民!」
「『一緒にいれますように』」
「良い線突くじゃね〜の。涙」
「阿呆か。叶う願いを祈願なんかしてどうすんだよ」
「いっ、いま然り気無く翼がデレたぞ!?聞いてて此方が恥ずい!むず痒くなる!」
「むしろ神に頼む事が間違いだ。いいか?神と謂うのは宗教的・民俗的な信仰の対象となる超人間的な能力を持つ者の事だ。スーパーサイヤジンじゃ有るまい。そんな者はこの世に存在しない」
「もうオメーまじ黙れ」
「……同感」
「俺様を苔にしてんのかテメーは。今から神に頼もうとしてる俺様が馬鹿じゃねえか。祠に頭下げてるだけになるだろ。それを参拝と見ないテメーの神経疑うわ」
「さっさと祈願済ませちまおうぜ?的を射るなら“勝利”の2文字しかねえだろ。結局遣るのは俺等だし実力の問題だけどよ?願えば神様は祠から見守ってくれる」
「だから神は――――」
「しつけえわ!念の為の神頼みだろうが!それ以上言うとテメーに厄が付くように拝んでやるぞ!?良いからさっさと賽銭箱に金入れろや!テメー等もだ!」
次々に賽銭箱へと小銭が入れられる。
賽銭箱の中へと落ちて行く小銭を私は見つめるだけ。
チャリン―――――…
お金特有の擦れる音が響く。