こうして僕らは、夢を見る
「デブなんだから走って痩せやればいいんじゃね?」
「レディーにそんな言い方はイケね〜よ。楓ちゃん?」
「あ?ただの健全な手助けだっつーの。走ったら痩せんだろ。」
楓君と籃君が話してる。
話してる、んだよね?
あ―――……
耳に入って来ない。
なに話してるんだろ?
聞こえないよ、何も。
『走れ』
………――――ッ!
ドクンッ―――ドクンッ――――――ドクッ――ドクッ――ドクッ――――ドクッ――ッ!
荒々しく脈拍に押し潰されそうになり思わず荒い吐息を零してしまう。胸元でTシャツをグッと握り呼吸を整える。強く握り締める余り手が小刻みに震えている。
冷や汗が頬を伝う。
そんな私に気が付いたのか涙君が私に目を向けた。
「………蕾さん?」
不安げな声。心配そうな表情。
大丈夫。大丈夫だよ。
だからそんな顔しないで?
そう言いたいのに言葉が出てこない。声が出ない。楓君の言葉が耳に残り私の胸をざわつかせる。
裂けそうな胸を擦りながら涙君に「…へへっ。」と笑みを見せると涙君は困ったように眉を下げた。大丈夫だよ。本当に大丈夫だから。
そんな私を見たせいなのかは定かではないけれど翼が楓君にふざけたような言葉を掛ける―――――――――が何処か楓君を咎めるような口調。
「―――――ほら見ろ。チビが落ち込んだ。どうすんだよ?お前のせいだぞ。楓。」
「は、はあ?何で俺なんだよ!」
「楓ちゃん顔に"不味い"って書いてあるぜ〜?もう素直に謝っちえよ〜。楽になろうぜ?」
「だから何で俺が謝らなきゃイケねえんだよ。」
「あきらかにお前が悪い。」
翼と籃君に朔君に畳み掛けられるように責められる楓君は不貞腐れている。
本当に大丈夫だから。
楓君は悪くない。
不意に引っ張られる服の裾。此所を引っ張られるのは数回目―――――――あ。やっぱり涙君だ。
「……だいじょうぶ?」
「……ふふっ。大丈夫だよ、」
大丈夫、大丈夫、大丈夫―――――――――だよね?
うん。大丈夫。
そう思い込むようにしてギュッとTシャツの胸元辺りを握り締めて瞳を閉じた。