こうして僕らは、夢を見る











――――――――――
―――――‥





「くくっ……」

「笑いたいなら笑いなよ。」

「い、いや。大丈夫ですよ……………ッ」





日が暮れ時の夕刻。テニスコート近くの青いベンチに座る素っぴんの私と麗しき美少年。気後れしそうなほど美しい少年の隣に座ると自分の見すぼらしさが際立つ。何て悲しき現実。もう少しお洒落しておくべきだった。



金髪の美少年は笑いを耐えるよう口元に手を宛がうと顔を背けた。何だか第1印象と全く違う。英国紳士的な風貌なのに意外と失礼な子だ。それに案外フレンドリー。笑い上戸?と思わせられるぐらいさっきからずぅッと彼は笑い続けている。



私の奇声が彼のツボに入ってしまったみたいだ。



――――――時は数分前に遡る。草木の茂みに隠れている私の後ろから突如現れた美少年。盗み見をしていた私を罰しに来た地からの使者かと思った。しかし実際は地獄の番人ではなく天からの使者。驚かすつもりは無かったらしいが予想以上の反応を私が見せたため天使みたいな美少年の笑いを誘った。





「………」





痛い。



私は右手でおでこを擦る。驚き過ぎた余り木におでこをぶつけてしまった。不運すぎる。前言撤回。人の不幸を笑うなんて天使じゃないよ。美少年の小馬鹿にした笑い声が地味に胸を突き刺す。





「大丈夫ですか?」

「……うん」

「なら良かっ、………ッく」





心配してくれるのは有難い。だけどせめて笑うのは止めて欲しい。あからさまに笑いを耐える美少年の姿が私の白けた瞳に映る。



美少年は私と目を合わそうとはしない。その金髪毟ってやろうかコンチクショウめ。私が見えるのは彼の後頭部のみ。何故なら私を見ると笑いが吹き返すからだ。



チラッと横目で私を見ると。





「……ぶはっ!くっははははッ」

「………」





ほらね。



失礼な子だと左手に持っている缶ジュースに力を込めた。グシャとアルミ缶が歪んだ。私の眉にも不機嫌そうに皺が寄っている。



暫くしてから彼は笑い終えたのか「ふーっ」と肩で息を吐き捨てると私に「すみません」と謝罪の言葉を述べた。その爽やかな笑顔からは罪悪感が微塵も伝わってこない。寧ろ遣りきった顔だ。笑いが修まった事が嬉しいのか達成感で満ちている。



本当に悪いと思ってんの?と思わず彼に訝しげな眼差しを向けてしまう。余りにも大人げない。相手は現役高校生だと言うのに。



私の意味深な瞳に彼は困った表情を浮かべた。そんな表情でさえ様になる彼に思わず口を噤ぐ。





「隠れてないで出てこれば良かったじゃないですか。」

「うっ、」





何その私が悪いみたいな言い方ッ



でも確か一理ある。素早く出て居たならおでこも負傷しなかったし笑われる事もなかった。けどそれが出来ないから隠れてたんだよ。



昨日の今日だけど「お前誰だよ」とか言われたらどうしようかと不安に思ったし。案外ビビりなんだから。こっぴどく拒絶されたら私は数日間立ち直れない自信がある。だって繊細な乙女なんだもん!つうか楓君とか見た目だけなら超怖いし。中身ワンコだけど。



私の複雑な気持ちを察したのか彼はフワッと柔らかく笑った。本当に高校生なのかと疑ってしまうような風貌とその綺麗な笑みに私は思わず見惚れてしまう。
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