こうして僕らは、夢を見る
「油断したよ。流石だね、楓。」
「心にもねえコト言うな。どうせ『いきなり本気だしてんじゃねえよ糞野郎』とか思ってんだろ。」
「あ。バレてた?」
まさか100%の本気出すとは予想外だったよ。
そう言い綺麗に微笑んだ司くんは本当に今まで打ち合っていた少年なのか疑う。優美に毒を吐き捨てる司くんは小悪魔のようだ。一見は天使なのに皮肉すぎる。
「また遣ろうね。」
「は?もう終わりかよ!?まだ一球しか遣ってねえだろ!司と遣れる機会なんて滅多にねえんだから未だ遣ろうぜ?」
「えー。疲れた。」
気分屋だなオイ。
若干呆れながら司くんを見つめる。弱音なんて吐く事がなさそうなのに意外とあっさり『疲れた』と言った事に少し吃驚仰天。
「司は自分の欲望に忠実な奴だ。」
朔君がそう言った。
欲望?忠実?
「善く言えば素直。悪く言えば自己中。それにいつも振り回されるのは俺達だがな。」
「……ああ。ご苦労様」
「全くだ。」
何れだけ振り回されているのかが朔君の顔を見ると窺える。若干疲れ果ており迷惑だと言いたげな表情を浮かべている。
そんな朔君に何と言えば良いのか分からず曖昧な言葉を掛けた。何がご苦労様なのか私自身よく分かっていないけど朔君は“ご苦労様”らしい。
徐々に司くんの性格が窺えてきた。
朔君は溜め息を付くとコート上に居る司くんを見つめ直す。意外と苦労人らしい。朔君は少年達の世話役の位置に居ると分かった。
「司〜。俺とも打とうぜ。」
不意に私の横に座っていた籃君がコート上に姿を表した。
は?
つい先程まで隣に居た籃君が瞳に映った事に吃驚した。慌てて横に視線を移すが――――――――――――居ない。いつの間にかコート上に移動していたらしい。
のらりくらりと司くんと楓君に近寄り話し掛けている。手にはラケット。そしてお揃いの白と水色のユニフォーム。ニコニコと笑う籃君は遣る気満々のようだ。
「はあ?出てけよ!俺が司と打ってんだから順番だろ!」
「でも司飽き性だからよ、さっさと打っといた方が良いだろ。俺も司と打ちてえし。」
「……俺も。」
おいおい……
慌てて籃君が座っていた場所とは真逆のベンチに視線を移すけど、やっぱり居ない。
先ほど傍に居た翼と涙君の姿は無かった。それもその筈。2人はコート内に居るからだ。籃君同様、ラケットを持っている。どうやら司くんと打ちたいらしい。