こうして僕らは、夢を見る
「モテモテだなあ、司くん。」
寄って集(たか)って司くんに打ち合いを申し出てる。なんだか変な光景だよね。ひとりの男の子を複数の男の子が奪い合うって。
「えー。もう良いよ。いまの1球で満足したし。お前等だけで遣れば?4人と遣るなんて面倒だし。」
――――――――当の本人は怠そうだけど。
確かに自分の欲望に忠実。司くんは自分のペースを乱されることを嫌いそうだな。気分屋すぎる部長に苦笑いを浮かべる。コートから私が座っているベンチの距離は近くない。遠くもないけど。程好い距離だから私が笑った事には気が付く事は無いだろう。
私はコートから視線を逸らし傍に立っている朔君を見上げる。
「朔君は行かないの?みんな行ってるけど。」
みんな司くんと打ちたいらしいが朔君は何故か行かない。輪から外れてコート外で5人を見つめたまま動こうする様子すら無い。
何でだろう?と私は朔君を見上げながら首を傾げる。
朔君は私を見下ろしてフッと笑みを浮かべた。その笑みに不覚ながら胸がドキッと高鳴ってしまう。
「蕾さんをひとりにするのは気が引けるからな。」
――――………え?
「冗談だ。」
冗談かいッ!!
ちょっ、おまっ!冗談!?
かなり期待しちゃったんだけど!しッ仕方ないじゃん!あんな言い種は卑怯だよ!いまお姉さんはメロドラマみたいな展開を想像しちゃったよ!?なのに冗談!?いやいや。確かに期待した私が馬鹿だったのかもしれないけどさ!?私の胸キュンを返せコノヤロウ!
「……それも冗談だがな。」
ガミガミと愚痴を零していた私がその意味深な呟きを耳にする事は無かった。