こうして僕らは、夢を見る
自然と視線は司くんに向かう。
テニスコートの半面に司くん。もう一方の半面には涙君と籃君が。翼と楓君はコート外に居た。
当初の1vs1から私が朔君と話している間に1vs2に変貌を遂げていた。一度に2人を相手にする司くんが純粋に凄いと思った。
あれほど渋っていた司くん。
いざ打ち合うとなると良い顔をしている。やっぱりテニスが好きだと言うことが伝わってくる。
何も司くんだけじゃない。みんなテニスコートに居るときが一番良い顔してるよ。生き生きしてる。晴れ晴れしさがある。
「………カシャッ、とね。」
指で即興カメラを作るとテニスコートを撮る仕草をする。いま本物のカメラを持って無い事が憎いな。合れば撮ってたのに。
でももしかすると合っても撮ってないかもしれない。
こういうのは形に残すものじゃなくて心に残すほうが価値が有りそうだから。一生より一瞬。一瞬間だけの儚いものだからこそ胸に刻まれる。
「蕾さん?」
指で長方形を作り指の空洞からテニスコートを見つめる私を朔君が訝しげに見つめてくる。
そりゃそうだ。
「何でもないよ。」と素早く誤魔化した。
うん。もう私の心に皆の良い表情は刻まれたしね。1人頷くと指で作られたカメラを崩し手を下ろす。
まだ何かを聞いて来ようとする朔君。しかし突然何かを思い出したような仕草を見せる。
「楓に――――」
「ん?」
楓君?
なに?と首を傾げるベンチに座る私の横に腰掛けた朔君は話す。
「楓に何か言われたか?」
朔君に言われて思い返して見る。しかし然して何かを言われた覚えはない。チビとか言われるけど、そう言う類いの事を聞いている訳では無いと思う。
悪い意味でも善い意味でも変わった事なんてひとつもない―――――――――――そう否定しようとしたとき。
「………あ」
ふと浮上したあの意味深な視線。
ほんの一瞬。一瞬だけ目が合ったときに何かを謂いたげな眼差しを向けられた。
しかしそれはほんの僅か。躊躇いがちに何かを言おうとした楓君は数秒経つと直ぐ様目を逸らした。追及しなかったけどその眼差しは私の心に蟠りを残していった。