こうして僕らは、夢を見る
朔君のお陰で折れそうだった心が復活。コートに視線を戻すと特に何かをする訳でもなくボーッと打ち合う司くん達の姿を見る。



翼と先ほど此方に目を向けていた楓君がコート上にいる。相変わらず司くんは1度に二人を相手しているみたいだ。



体力を有り余るほど持ち合わせているのか司くんはずっとコート上に居る。かれこれ数十分は打ち合っているため僅かに息が乱れているがバテてはいない。まだ余裕そうな顔付きだ。






「ほえ〜。みんなスゴいな〜。」






素っ頓狂な声を零しながらコートを見つめていると間を伺っていたらしい朔君が話し出す。





「…蕾さん」

「んー?」





気の抜けたような返事をする。



楓君の話を持ち出されたときからいつかは聞かれるだろうと予想していた。多分朔君は――‥





「昨日は何で帰ったんだ?」





―……やっぱり。



大体聞かれることを予想していた私は然して狼狽えることもなく、頭のなかで思考を巡らしていく。



さあどーしようか。



【コマンド選択】

▽話す
▽戦う
▽逃げる



ここは消去法を取ろう。スキルが低い私が戦うなんてことは不可能。不可能を可能にする力も持ち合わせていない。故に【戦う】と云う選択義は抹消される方向で。



だけど【逃げる】を選べば昨日の2の舞。仮に逃げるを選んだとしても【逃げれません】に成るに違い。なら残るのはひとつ。



▼話す
▽戦う
▽逃げる



【話す】を選ぶしかない。



頭のなかでピコピコと矢印を上下に移動させながら考えた結果私が選んだのは【話す】だった。



何も本当の事を話さなくてもいい。いや。だけど勘が良さそうな朔君だ。嘘を付けばバレてしまう確率は極めて高い。



なら本当の話を少し弄ればいい。うん。此れでいこう。



こうして考えが纏まった。





「……蕾さん?」

「あー……うん。昨日バイトだったんだよね。」

「バイト?」





そうそう。バイト。



聞き返してくる朔君に私は数回程頷いた。
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