こうして僕らは、夢を見る
私が思考を巡らす心のうちを知らない朔君は聞いてくる。いくら複雑な気持ちが渦巻いているからと言って無視なんてせず私も自然に対応する。





「どこで働いてるんだ?」

「バイト先?バイト先はね――――――――‥」





高校生時代から雇って貰っているバイト先の名前を言おうとしたときに私はふと眉を顰めた。





「……ん?」





ちょっと待て。



嫌な予感がして額を押さえた。



―………あれ?



不意に浮かび上がった疑問に顔が青白く変色していくのが分かる。




バ イ ト ?




私は自分の持ってきたエコバックを恐る恐る見つめる。その中にはこのテニスコートに来る前に家で用意していた荷物。



昨日は手ぶらだったが今日はエコバッグ付き。それに自転車付き。それは‘用事’が在るからだ。



ただテニスコートに来るだけなら荷物なんて要らないが一応テニスコートはその‘用事のついで’のつもりだった。













―――――――――バイト出勤の。



このエコバックの中にはバイトの用意が入っている。








「………っ!?」





エコバッグの中身を思い出すと慌てて腕時計を見ると短針が6で長針が15を差していた。現在の時刻は【6:15】。因みに私の出勤時刻は18時からだったりする。





「ぬおおおおおお!?」





―――――――私の出勤時刻は遠に過ぎていた。
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