こうして僕らは、夢を見る
* * *
テニスコートを足早に去ったのはいまから一週間前のこと。最近は連勤続きだった私はテニスコートに脚を運んでいない。
ゆえに彼等にも会っていない。まず私なんて居ても居なくても変わりはないだろうから、然して気にしないでいた。
一週間経った今日もバイト。日給ではなく時給制だ。時給は―――――――秘密にしておこうかな。然程高くはない。数年前に比べれば時給はUPしたけど。
今はバイト先の制服を身に纏ってクーラーの利いた店内で勤務中。涼しい職場なだけまだ良い。最近なんかは何処も節電でクーラーが付いていないらしいから。
「蕾〜。今日呑みに行かねえ?」
客足が止まった頃を見計らい同じくアルバイト店員の翔(かける)が声を掛けてきた。
司くんのしなやかな金髪とはかけ離れたブリーチで傷んだ金髪に、怠そうに身に纏った制服。
おいおい。こんなんでいいのか、店長。パッと見ただの軽そうなギャル男にしか見えない。明らかに万人受けしない形(なり)だろ。
そう突っ込みそうに成るが店長は「真面目に仕事してくれればそれでいいよ〜。」的な人だから大して咎められていない。
けれど私からすれば雇って貰っている身なんだから仕事中位真面目な格好をすればいいと思う。
「いかない。て言うかアクセ禁止だよ?外しなよ。」
「固いコト言うなって。」
ハハッと軽く笑い首にぶら下がるブランド物のチェーンを弄る翔。私の厳しめの言葉はいつものコトだから余り気にしていない様子。外す気も無いようだ。
「今日仕事なのか?」
「うん。」
「俺が客として蕾を指名してやろうか?」
「うん。」
「ハハッ。しゃあねえな。」
「うん………え。マジで?」
軽く流しながら頷いているといつの間に本当に翔が店に来てくれる事になっていた。
私は驚いて斜め後ろに立つ翔の方に振り替える。客足も止まっているので雑談していても支障はない。それより翔の事の方が気になって仕方がない。
「おう。良いぜ?どうせ俺、今日休みだしな。適当に店の奴等連れて押し掛けてやるよ。」
「わ。豪華じゃん。」
「バーカ。俺だけでも豪華だろ。」
「自分で言うな。」
そうは言ったものの夜で働く者からすれば翔は少し有名なのかもしれない。メディア露出OKな店に勤めているホストだからだ。よく雑談やTVでも姿を見掛ける翔は、
夜の街の一角に佇む超高級会員制ホストクラブのナンバーワンホスト飛翔‐HISHOU‐として名を馳せている。
まさか昼間はこんな何処にでもある24時間営業の某ファーストフード店で真面目に接客しているなんて誰が思うだろうか。私でも信じ難いものがある。