こうして僕らは、夢を見る
「俺が、お前をナンバーワンにしてやろうか?」
ドラマ宛(さなが)らの台詞を意図も簡単に吐き捨てる。口元を上げて悪戯心を見え隠れさせている翔はホストの顔。
こうやって甘い顔を見せ甘い言葉を囁き世の女性を虜にしているんだろう。昼間はただのファーストフードの店員なのにね。
「遠慮しておくよ。」
「ふうーん‥‥。どうせなら売上金額伸ばしてナンバー1の座を強奪してやろうと思ったのによ〜。ナンバー2が自分には丁度良いってか?」
良いんじゃなくて、お似合いなんだよ。
私なんかがナンバーワンに成ってみなよ?店が終わるよ。それにナンバーワンは謂わば店の顔。綺麗に着飾って常に気を引き締めなきゃいけない。好きなときに辞めることさえ難しくなる。
ナンバーワンに成りたいなんて思ったコトすらない。付かず離れずがのナンバー2・3辺りを行き来するのが私には丁度良いぐらいだ。
「‥‥‥‥ほんと向上心のねえ嬢だな、お前は。」
呆れたように言った翔。
―――――――――――夜になると会員制クラブ・ROUGEに勤めているホステスな私。
昼間とは一変。メイク道具のお陰で小綺麗な身なりに大変貌を遂げる。素っぴんで髪も適当にヘアゴムで1つに束ねているファーストフードの店員バージョンの今とは全く似ていないと頻繁に言われている。それは綺麗に着飾る私の愚弄でも何でもない。
どちらかと言えば本当の私は素っ気ない格好の方だからだ。高いヒールを履いて笑顔を張り付けた私は私ではない。寧ろ小汚ないスニーカーの方が落ち着く。
「煩いよ。別にナンバーワンとかどうでもいいし。給料良いから遣ってるだけだし。」
「別に金に困ってる訳じゃねえんだろ?」
「アンタ馬鹿?ここのバイト店員の給料で生活していくなんて無謀じゃん。厳しすぎる。」
そう。ただお金のため。
豪遊したい訳でもなく借金してる訳でもない。独り暮らしをしているため、家賃・光熱費・水道代・ガス代・その他諸々に1ヶ月分の給料はアッサリ消えてしまう。
その金銭的にキツキツの環境のなか、生活するのは厳しい。だから私は夜の世界に足を突っ込んだ。
ただ、それだけ。