こうして僕らは、夢を見る




「手厳しーな。」

「アンタが軽いんだよ。」

「はは。」




何も私が堅いわけではない。翔が軽すぎるだけ。煙草を吹かしながら笑う翔はいったい何処から何処まで本気なのか分からない。


その笑顔も本心からなのかさえ不確かだ。大人の余裕か、見栄っ張りなのか。翔は良く分からない。


世間一般で彼女と呼ばれる女の子が何人居るが不特定多数。本気では無いみたいだけど。




「ただ俺は心友の蕾ちゃんが取られて寂しいだけ。」

「はいはい。」

「これマジだって。」




然り気無く交わすも翔が文句を言う。冗談口だから本当に本気なのかも分からない。


だけど心友ってのは賛成。親友じゃなくて心友ってところが良いよね。かなり親しい訳ではないけど心からの友達。男女の友情ってのも響きが良すぎる。


なんて頭の片隅で考えながら意識は7割手元に持っている飲み物。あ―‥‥カルピス美味しい。




「《かけちゃん、強敵現れる!》って感じだよな。」

「はあ?強敵?だれ?」

「だからイケメン君達だって。」




意味わかんない。


なんで《強敵》?


どうして司くん達が翔の敵になるの?と怪訝に思う私にまた良く分からない笑顔で翔は笑った。




「いろんな意味で、敵。」




これ以上は言うつもりはないのか翔はテーブルに肘をつき、煙草を口元に宛がった。


時偶。翔は良く分からないことを言うときがある――――――今のように。遠回しすぎて私には良く理解出来ない。


いや、違う。私に分からないように遠回しに言うんだ。何だかんだ仲は深いが、翔は掴めない男だ。




「後から出逢ったヤツ等に掻っ攫われる羽目になるとはな。」




また意味深に呟いている。


ふう―――‥‥と吐き出した煙が休憩室の空気を澱ます。物事も澱ます。ゆらゆら揺れる白い煙を私と翔は見ている。互いの瞳を見ることはない。


そしてゆらゆら揺れる白煙のように私達も、ゆらゆら会話する。


引き締めがなくダラダラした掛け合いを始めた。人生という圧迫に力んだ肩の力を抜いた瞬間。








「なあ、蕾―‥‥?」

「ん―‥‥?」

「あいつ等、おもしれ―‥‥?」

「ん―‥。それなりに。」

「なんか目映いよな―‥‥。」

「そーだね。私もそう思う。」

「惹かれる?」

「どことなく。」

「そーか。」




私の気の抜けた可もなく不可もない回答に翔は嬉しそうに笑った。自分のことのように。きっと翔もどことなく彼等に惹かれるものを感じるんだろう。


無意識に全盛期だった頃の自分とリンクさせているから。


目映い少年達を見守りたくなる。何処と無く懐かしむような瞳。高校時代は演劇部とバンド部だった翔を見てみたかったと思った。
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