こうして僕らは、夢を見る
休憩室な端で騒ぐ濱口君と翔の声を聞きながらテーブルに置いてあった帽子を被り直す。そして空になったカルピスのペットボトルをゴミ箱に放り投げる。



ガコンッ


お。ラッキー。入った。



投げたペットボトルは綺麗な半円を作り見事にゴミ箱へと入った。命中力もかなりのモノだな。



わたしは一人、満足気にフムフム頷く。



そして篭に入ったチョコレートと飴玉を数個ポケットに詰め込んだ。苛々防止の愛用チョコレート。糖分摂取に抜かりなし。




「よし。行こうか濱口君。」

「あ、はい。」




いつの間にか翔とゲームの話で盛り上がっていた濱口君に話し掛ける。するとハッと我に返ったようにパイプ椅子から立ち上がった。



濱口君、絶対いまがバイト中だって忘れてたよね?恰かも我が家のように気を抜いてたし。それだけ此所の居心地が良いって事なのかな?私も心地良いから好きだよ。




「んじゃーね。翔くん。」

「おう。じゃあな。蕾ちゃん。」




ヒラヒラと手を振れば翔もヒラヒラと手を振り返してくれた。扉を開けて休憩室から出ようとした時――――――――ふと思い出したように翔が言った。




「あ、そうそう。」




何かを言い掛けた翔に私はドアノブに手を添えたまま首だけ振り返る。


そして翔は煙草を口に宛がい私に告げた。




「今日11時に行くわ。」

「‥‥‥おーけー」




あ――…


あらら。忘れてたよ。すっかり頭から抜けてた。ココが終わってもまだお仕事が有るんだった。スケジュールハードだなあ。独り暮らしを始めた頃の仕送りが恋しい。


と言うよりも本気だったんだね、あれ。本気で来るとは。


翔の要件もそれだけなのか、言い終わると再度煙草を吸い始めた。それを確認すると私は濱口君と共に休憩室を後にした。
















―――――――――――
―――――――


「何かあるんですか?」




休憩室を出て直ぐ、濱口君が私に聞いてきた。




「ん〜。」




曖昧に返事をする。


濱口君の言う"何か"は何て答えれば正解なんだろうか。本当の事を言うのは頂けない。かといって嘘をつくのも癪だ。だから――‥




「金と欲と位に塗(まみ)れた夜のお約束かな。」




そう言った。抽象的で尚且つ明確。しかし私の言葉の意味合いが解らないのか首を傾げる濱口君。


それでいい。分からなくていいよ君は。ハンドボールとゲームに専念する清き学生で居なさいな。








「あま、」



口が寂しくて飴玉をポケットから取りだして舐め始めた。口に広がるメロン味。甘いな。甘い甘い。


―――――――だけど心は空っぽのままで、何だか寂しかった。
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