こうして僕らは、夢を見る
「――――まさかこんな近くの店だったとはな。」
店を見上げながら深々と呟いた朔君。
ここから光陽高校は然程距離はない。寧ろ近い。朔君がそう思うのも無理はない。私が高校のときは何度も言われていた台詞。
『なんでこんな近いの!?普通はもっと学校から離れた場所でバイトするでしょ!光陽の生徒とか教師に会ったら気まずいし!』
とか。
だけど私は学校側に申請していた。気まずさより通勤の便利さだ。それよりも無断の癖に学校付近でバイトする濱口君の方がある意味凄すぎる。
「ここで高校のときからバイトしてるんだ。」
「へえ〜。今まで会わなかったのが不思議じゃね〜?よく此処には来るし。な?」
「おう。つか会ってたかも知れねえし。ブスと会ってるとか有り難迷惑だけどな。」
「うっさいワンコ。」
「わ、ワンコ!?誰がワンコだ!せめて犬って言えよブス!」
あ、しまった。
あちゃーと態とらしく額に手を添える。思いっきり心の声が零れていたらしい。
まずワンコは私を『ブス』と呼ぶのは止めたまえ。『ブス』なんかじゃなくて『蕾お姉さま』なら大歓迎なんだけどね。『お姉さま』とか萌える。ツンデレ男子の楓君に照れながら呼ばれてみたい。
「ねえねえ。お姉さまって呼んでよ。」
「いきなり過ぎだろ。」
楓君の服の裾を引っ張り、見上げながらそう言った。
即座に翼に突っ込まれたが気にしない。確かに急だよ。だけどっ!私は楓君に『お姉さま』と呼ばれてみたいの!こう‥‥母性本能を擽る楓君だからこそっ!
「は、はあ!?い、嫌に決まってんだろうが!」
「えー。けち。」
「うっせえ!よ、呼べるワケねえだろうが!」
「うわ〜。楓、顔真っ赤。トマトケチャップじゃねえの。」
「え。なんでそこでケチャップをチョイス?トマトで良くね?」
「いちいちウッセえんだよチビ。どっちでもいいわ。」
お前の突っ込みも大概ウザいわ。
思わず翼にそう言いたくなるが乱闘秒読みになるから言わない。
確かにトマトケチャップでも良いんだけど。でもなんで?赤いよ?トマトも赤いよ?なんでトマトを潰したケチャップをチョイスしたの?トマトで良いよね?ねえ?
思わず籃君の発言に突っ掛かる。しつこすぎる私の執念。一度気に成り出せば止まらない。
「いまミネストローネが食いて〜から。」
「あ。そうですか。親切にどうも。」
「いえいえ〜。」
え?ならトマトで良くね?
結局はトマトじゃん。
ミネストローネでしょ?ミラノ風野菜スープだよね?普通はトマトだよね――――――――――――――――何でトマトケチャップ?
解けない謎。
だけどわざわざ教えてくれた籃君に一応お礼の言葉。