世界をあげる

花ちゃんはよくわからないみたいだったが、太郎さんは話を始めた。

「…俺の兄はすごいやつなんです。昔から勉強も運動もできて、リーダーシップもあって、器用になんでもこなせるカッコイい人で。
それに比べて俺は、馬鹿だし引っ込み思案で、不器用で要領悪くて。」

太郎さんはかなり自分を卑下している。

「俺の父は会社を経営してるんで、いずれ兄か俺のどちらかが継ぐと言ってました。俺も兄も今その会社で働いているんですけど。
まあ兄は完璧人間だし、年上だし、兄が継ぐことは当たり前だと思ってて、別にそのことに関しては賛成でした。
でも…」

太郎さんは俯いた。

「周りの視線に耐えられなかった。いつも兄と比べられる。いつも会社が背後にある。言い寄ってくる女たちもみんな会社や金目当てで、俺が出来損ないだとわかると離れていく。誰も俺自身を見てくれない。」

…そんなことないと思う。こんなにも魅力があるのに。

多分太郎さんは自分の魅力に気づいてないから相手にすらそんな視線で見られていると感じてしまったのだろう。

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