Secret Lover's Night 【連載版】
出来ればその光景は見たくない。けれど、このまま放置してこの場を去るわけにもいかない。一つ深呼吸をし、智人は意を決してスイッチをONにした。
「ママ…ママぁ…」
バスタブを覗き込み、何かを探すように手を伸ばしている千彩。その手が何を求めているのか、尋ねなくとも発する言葉で明らかだった。
「千彩」
「ちーちゃん」
震える声を押し出した二人を、千彩は完全に意識の中に入れていない。その証拠に、千彩は何も無いバスタブの底を掴もうと必死になっていた。
「千彩、やめろ。もうやめろ」
「ママ…ママ…」
「わかった。わかったから!」
グッと腕を引き、智人は千彩の上半身をバスタブから引き摺り出した。それでももがいてバスタブの中へ上半身を戻そうとする千彩の目は、言うまでもなく焦点が定まっていなくて。揺れることもなく一点を見つめるその瞳は、ただただ自分がつけた赤い痕だけを映していた。
「智人、にーちゃんに電話する?」
「あぁ、うん。いやっ、やめとこ」
「せやけど…」
「帰る言うてもすぐには無理やし、やきもきさしたら可哀相やろ」
「言うといた方がえんちゃうん?」
少し思案し、智人はゆっくりと首を横に振った。
「取り敢えず、手当したらな」
思いきり破片を掴んでしまったのだろうか。千彩の傷口は思ったより深くて。それでバスタブの底をなぞっていたものだから、傷口が開き白いバスタブは惨劇の後の如く赤い手形がついてしまっていた。
「悪いけど、これ流しといて」
「おぉ」
虚ろな目をしたままの千彩を横抱きに抱え、智人はリビングへと戻る。さて、どうしようか。そう思案しているうちに、テーブルに置きっぱなしだった携帯が軽快なメロディと響かせた。
「うわ…タイミングばっちりや。最悪」
薬箱を取るついでに携帯を拾い、そのまま通話ボタンを押した。
「はい」
『おぉ。ちぃ、どうや?』
無事に見つかったものの、やはり晴人は千彩のことが気がかりで。同じように他の三人も気にして美味い酒など飲めやしないものだから、ここは一ついつもの元気な声でも…と電話をかけてきたのだ。
「ママ…ママぁ…」
バスタブを覗き込み、何かを探すように手を伸ばしている千彩。その手が何を求めているのか、尋ねなくとも発する言葉で明らかだった。
「千彩」
「ちーちゃん」
震える声を押し出した二人を、千彩は完全に意識の中に入れていない。その証拠に、千彩は何も無いバスタブの底を掴もうと必死になっていた。
「千彩、やめろ。もうやめろ」
「ママ…ママ…」
「わかった。わかったから!」
グッと腕を引き、智人は千彩の上半身をバスタブから引き摺り出した。それでももがいてバスタブの中へ上半身を戻そうとする千彩の目は、言うまでもなく焦点が定まっていなくて。揺れることもなく一点を見つめるその瞳は、ただただ自分がつけた赤い痕だけを映していた。
「智人、にーちゃんに電話する?」
「あぁ、うん。いやっ、やめとこ」
「せやけど…」
「帰る言うてもすぐには無理やし、やきもきさしたら可哀相やろ」
「言うといた方がえんちゃうん?」
少し思案し、智人はゆっくりと首を横に振った。
「取り敢えず、手当したらな」
思いきり破片を掴んでしまったのだろうか。千彩の傷口は思ったより深くて。それでバスタブの底をなぞっていたものだから、傷口が開き白いバスタブは惨劇の後の如く赤い手形がついてしまっていた。
「悪いけど、これ流しといて」
「おぉ」
虚ろな目をしたままの千彩を横抱きに抱え、智人はリビングへと戻る。さて、どうしようか。そう思案しているうちに、テーブルに置きっぱなしだった携帯が軽快なメロディと響かせた。
「うわ…タイミングばっちりや。最悪」
薬箱を取るついでに携帯を拾い、そのまま通話ボタンを押した。
「はい」
『おぉ。ちぃ、どうや?』
無事に見つかったものの、やはり晴人は千彩のことが気がかりで。同じように他の三人も気にして美味い酒など飲めやしないものだから、ここは一ついつもの元気な声でも…と電話をかけてきたのだ。