Secret Lover's Night 【連載版】
泣き虫な千彩のことだから、泣き叫んでいてもおかしくない。けれど、どうしたことか千彩の目から涙は零れていなかった。

『何があったんか、俺にはわからへん。吉村さんに電話して確認する』
「あぁ…うん」
『明日、朝一でそっち行くから』
「仕事は?」
『大丈夫や。元々切り上げるつもりやった』
「あっ…そう」

晴人が予定を一日早めたのは、敢えて訊かなくとも千彩のためだとわかる。それは自分にも原因がある。そう思うと、智人は憎まれ口を叩くことが出来なかった。

「今日は寝んと見とくから」
『おぉ。頼んだで?』
「うん。気ぃつけて帰ってきぃな?」
『おぉ。ありがとう』

少し落ちた電話口の声から、晴人がどれだけ千彩を心配しているかがわかる。今度こそ何もないように。と、コトンと携帯をテーブルの上に置いて、智人はソファで寝転ぶ千彩に静かに歩み寄った。

「どない?」
「んー…ずっとこのまんま」

ぼんやりと天井を見つめたままの千彩は、まるで人形のようで。このままだと風邪を引く。と、智人は和室からブランケットを運んで千彩を刺激しないようにそっと被せた。

「病院、連れてく?にーちゃん何て?」
「明日の朝一で向こう出るって」
「そっか。なら安心やな」
「ん。やな」

こんな時、晴人ならばどうするだろうか。色々考えてみるのだけれど、甘えて晴人の腕に絡み付く千彩の姿しか思い出せなくて。伸ばしかけた手を引き、智人は千彩が転げ落ちないようにソファの下へと悠真と並んだ。

「何か…疲れる日やな」
「にーちゃん、はよ帰ってこんかなー」

悠真の言葉に、はぁ…っと肩を落とす智人。チクタクと響く時計の音に、重くなりかけた瞼を擦った。
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