Secret Lover's Night 【連載版】
そこには、ご丁寧に布団が三組並んでいて。

三人で川の字になって眠ったのだろうか。それとも、二人で一晩中千彩に寄り添って見ていたのだろうか。それを思うと、何だか声を荒げてしまったことが申し訳なく思えた。

そっと千彩を布団に下ろし、晴人は静かに障子を閉めてリビングへと戻る。

「にーちゃん、コーヒーでええ?」
「おぉ。サンキュ」

ソファに座ると同時に運ばれてきたコーヒーに、どれだけかいがいしいんだ…と晴人は苦笑いで応える。そして、智人に向かって軽く頭を下げた。

「ありがとうな、智」
「え?」
「千彩の面倒見てくれて。吉村さん帰って来るまで俺もここ居ることにした。何があったか教えてくれるか?」

取り敢えずはお礼を。と、そんな晴人の思いに応えるように智人はコクリと頷き、二つ折りの紙を差し出した。


「千彩、病気なんやと。誰にもよぉ言えんで、ずっと独りで我慢してたみたいや」


診断書かと思いそれを開くと、中にはびっしりと文字が書き込まれていて。よくよく読んでみると、医師から家族に宛てられた手紙だった。

「お兄…知っとった?千彩、酒は嫌いや」
「おぉ」
「大声もため息も怖がる」
「せやな」

何を今更…と、首を傾げる晴人に、「ほんなら…」と智人は遠慮気味に言葉を続けた。

「後ろから手ぇ伸ばしたら怖がる」
「え…?」
「連れて行かれて、どっか売られる言うて。風呂も、怖がってシャワーしか浴びん」
「…」
「ケガはさしたらあかん」
「それは…」
「寝る時は、掛け布団深く掛けたら魘されてすぐ起きよる。怖い人が連れに来る言うて、結局昨日は殆ど寝てへん。せやから病院連れて行った」

次から次へと出てくる自分の知らなかった千彩の恐怖対象に、段々と晴人の頭の奥が痛み始める。

ふぅっと小さく息を吐き出した晴人に追い打ちをかけるように、智人は俯き加減で言った。
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