Secret Lover's Night 【連載版】
「智人、ほんまに大丈夫なん?」
「大丈夫や。千彩は俺が何とかする」

母の目にもまた、智人はワガママ放題の次男坊だと映っていて。そんな息子の成長に、とても暖かい気持ちになれた。

「お母さんらも協力するから」
「いつも通りでええんや。千彩が何か話そうとしたら聞いたって」
「うん。わかった。他には何かある?」
「あとは…せやな、料理とか片付けとか、手伝わせたってや」
「そんなんでええの?」
「ええんや。それがやりたかったみたいなんや」
「そう。ええ子やね、ちーちゃんは」

初対面の時こそ驚いたけれど、母も千彩を「悪い子」だと思ったことは一度もない。それどころか、素直な千彩のことを実の娘のように可愛がっている。

何にでも興味津々で、教えてやれば喜んで実践する。そんな千彩に色々と物事を教えながら、母は子育てを再度やり直すつもりだった。

「あんたらが小さい頃は、お母さん何もしてあげられへんかったもんねぇ」
「しゃぁないやろ。働いてたんやから」
「それでも、やっぱり後悔してるんよ。もっとちゃんとしといたら良かったって」
「あぁ…俺がこんなんなったから?」
「いや。そうとちゃうんやけどね」

優秀だった姉と、更に優秀だった兄。それを何とか超えようと頑張ったのだけれど、追い付くことで精一杯で。とても超えることなど叶わない壁に苛立ち、多少道を外れてしまった高校時代。

そのうちに音楽に目覚め、昔から晴人が大好きだった悠真を上手い具合に乗せてバンド活動を始めての今。インディーズではそれなりに知名度はあるものの、メジャーデビューまではまだ距離がありそうだ。

「智人は智人の好きなことしたらええんよ。お姉ちゃんやお兄ちゃんとは違うんやから」
「すいませんね、不出来な息子で」
「そんなことないよ?いつかお兄ちゃんよりも有名になるんでしょ?」
「おぉ。絶対な」

学力でも、手先の器用さでも敵わなかった。だからせめてアーティストとして、同じく何かを生み出す側として、分野は違えど同じ土俵に立ち、いつか兄を超えたいとそう願っている。

「千彩の面倒見てたら、何かわかるかもしれへんしな」
「何かって?」
「お兄にあって俺に無いもん。それがわかったら俺の勝ちやろ?」
「ふふっ。智人らしいわ」

一度は失いかけた思いでも、こうして取り戻してくれたのならば何も言うことはない。それに、上の二人が家を出てしまった今、一番下だけでも残ってくれているのいうのは親として嬉しいことだ。

「ほな、一緒に頑張りましょか」

くしゃりと智人の髪を撫で、母は「良い息子を持った」と誇らしげに笑った。
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