Secret Lover's Night 【連載版】
―――それから数日。


予定よりも少しだけ仕事を早く切り上げた吉村は、新幹線を降りてタクシーで三木家まで向かっていた。

出張中、千彩の異変を知らせてくれたのは離れているはずの晴人だった。自分と一緒に居た頃もよく起こしていた「発作」のような状態を、吉村はそこまで重度のものだとは思っていなかった。

育ててきた。と、そう胸を張っては言えない。確かに、千彩を守ってきたつもりではいる。けれど、美奈を亡くしてからは殆ど組頭に任せっきりで、自分は一緒に居てやれなかった。

晴人との電話を終えてから、これ以上出来ないというほどに後悔した。そして、今は亡き美奈と組頭に懺悔した。


そんな吉村に追い打ちをかけたのが、「親父さん」と慕う晴人の父からの電話だった。千彩を暫く預かりたいと言われ、既に揺れていた吉村の心は更に大きく揺れ動いた。詳しい事情は戻ってから話すと言われたものの、千彩が一種のうつ状態で、それに気付いたのが晴人の弟だということに更なる衝撃を受けた。

片付けなければならない仕事が山ほどあったというのに、もう吉村は仕事ができる状態ではなくなってしまって。無理を言って帰ってきたものの、またすぐに呼び戻されることは目に見えていた。


「何でこんなんなってもたんやか…」


吉村の知る千彩は、出会った当初こそじっと黙って自分達を観察しているような子供だったけれど、物事を教え始めてからはいつでも素直で、元気で、笑顔を絶やさない子供だった。母親である美奈の葬儀の時でさえ、号泣する自分の隣でにこにこと笑っていたのだ。


「ママ、良かったね」


そう言いながら美奈の手を摩る千彩を見て、吉村は涙が止まらなかった。
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