Secret Lover's Night 【連載版】
「うわっ…キツ!」
「薩摩の焼酎ですわ。トモさんも飲みはりますか?」
「いや、俺はいいっす」
「まぁええがな。たまにはお前も付き合え」
「要らんし」

ホロ酔いどころか完全に酔いが回ってしまっている父は、顔を赤く熱らせてにこにこと笑っている。珍しい…と、固かったはずの父の砕けた態度に、智人は渋々グラスを受け取ることにした。

「祝いや」
「は?」
「お前の成長祝い」
「いや、そんなんして要らん」

例えば今日が誕生日ならまだしも、何の変哲も無い日に「成長祝い」だと言われても、もうすぐ26になろうとする智人が嬉しいはずがない。カランと中の氷を回し中身を一気に煽ると、何も言わずにグラスを置いて千彩の待つダイニングテーブルへと向かった。

「ちょっとくれ」
「いいよ。はい、どうぞ」

横取りしたのは、千彩のお気に入りの100%のオレンジジュース。あまりの酸っぱさに表情を歪めながら、智人はくぅっと唸って千彩にグラスを返した。

「よぉこんなもん飲めるな」
「なんで?美味しいよ」
「すっぱないんか」
「これ飲んだら美人になるっておねーちゃんが言ってた」
「は?」
「ちさ、マリちゃんみたいになりたいの」

マリちゃん…?と少し考え、智人は「あぁー」と大きく頷いてみせた。そして、千彩の頬をプニッと掴んで緩く引く。

「お前には無理や」
「なんでー?」
「あんだけプリン食うんやから、お前がなるんはパンのヒーローやな」
「むぅー」

食後にプリン、おやつにプリン、ぐずればプリン。そんな千彩は、「モデルになるために生まれてきた」と称されるマリとは程遠い体型をしていて。

無理、無理。と笑う智人にふんっと顔を背けた千彩は、ソファで寛ぐ吉村の元に駆け寄って飛び付いた。

「おぉ!?どないした、ちー坊」
「おにーさま、ちさモデルさんになれない?」
「は?何を言い出すんや、急に」

突然甘えてきたかと思えば、今度は何だ。と、吉村はすっかり乾いた千彩の髪を撫でながら首を傾げた。
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