Secret Lover's Night 【連載版】
不器用な愛情
―――それから約一ヶ月。
お手伝いの一環として庭にある花壇の水やりを任されている千彩は、パーカーに付いているフードをすっぽりと被り、じょうろで花に水をやっていた。
「今日はねぇ、ともとのお誕生日!」
窓際に置いた友人「プリン君」に上機嫌で語りかけるも、言うまでもなく返事は無い。そんなことは気にも留めずにフンフンと鼻歌を歌いながら水をやる千彩は、深く被ったフードのおかげでそれに気付かなかった。
「誕生日くらい祝ってやらんとな」
聞き慣れた愛しい声にバッと振り返ると、晴人がにっこりと笑って立っているではないか。あまりの嬉しさにじょうろを放り、千彩は晴人に飛び付いた。
「はるっ!」
「おー。ええ子にしとったか?」
「うんっ!うんっ!」
首元に擦り寄って泣き出した千彩をギュッと抱き締め、晴人はリビングからその様子を眺めていた智人に軽く手を挙げた。
「よぉ」
「帰って来るなんか聞いてへんけど」
「だいぶ調子良さそうやて、吉村さんが言うてたんや」
「…あっそ」
確かに事前に承諾を得ずに突然帰って来たのは自分なのだけれど、それにしては不機嫌過ぎることはないだろうか。ゆっくりとその視線の行き先を辿り、晴人はグッと一度眉根を寄せて智人を見上げた。
「何?」
「…いや、別に」
本当は、会って真っ先にお礼を言うつもりだった。そして、「誕生日おめでとう」と言ってやろうと思っていた。
それを果たせなかった晴人は、気まずさを誤魔化すように千彩に頬を寄せ、被ったままだったフードをするりと取ってそっと髪を撫でた。
「元気にしとったか?」
「うん」
「ちゃんと毎日薬飲んでるか?」
「うん」
「それから…」
「千彩、来い」
腕の中の千彩を奪われ、晴人はギッと智人を睨み上げた。舌打ちを我慢しただけ偉かった。と、晴人自身は思っている。
「どうしたん?ともと」
「もう中入れ。風邪引く」
「はるは?」
「玄関から入って来るやろ」
「うん!」
「ちゃんと手ぇ洗うんやぞ」
「はーい!」
言われた通りにすぐさま洗面所へ向かう千彩の背中を視線で追い、完全にその姿がリビングから出てから晴人に向き直った智人。見下ろした兄は、不機嫌そうに表情を歪ませていて。
やっぱりカッコ悪い…と、出かかった言葉を呑み込んだ。
「入れば?玄関から」
「…おぉ」
「言うとくけど、千彩連れて出るから」
「は?」
「ライブ」
「何で千彩連れて行くねん」
せっかく帰って来たのに!と、そう言葉には出さずとも、不機嫌なままの晴人の表情が十分にそれを語っている。それに「ふっ」と短く笑い声を洩らし、智人は背を向けてリビングの窓を閉めた。
お手伝いの一環として庭にある花壇の水やりを任されている千彩は、パーカーに付いているフードをすっぽりと被り、じょうろで花に水をやっていた。
「今日はねぇ、ともとのお誕生日!」
窓際に置いた友人「プリン君」に上機嫌で語りかけるも、言うまでもなく返事は無い。そんなことは気にも留めずにフンフンと鼻歌を歌いながら水をやる千彩は、深く被ったフードのおかげでそれに気付かなかった。
「誕生日くらい祝ってやらんとな」
聞き慣れた愛しい声にバッと振り返ると、晴人がにっこりと笑って立っているではないか。あまりの嬉しさにじょうろを放り、千彩は晴人に飛び付いた。
「はるっ!」
「おー。ええ子にしとったか?」
「うんっ!うんっ!」
首元に擦り寄って泣き出した千彩をギュッと抱き締め、晴人はリビングからその様子を眺めていた智人に軽く手を挙げた。
「よぉ」
「帰って来るなんか聞いてへんけど」
「だいぶ調子良さそうやて、吉村さんが言うてたんや」
「…あっそ」
確かに事前に承諾を得ずに突然帰って来たのは自分なのだけれど、それにしては不機嫌過ぎることはないだろうか。ゆっくりとその視線の行き先を辿り、晴人はグッと一度眉根を寄せて智人を見上げた。
「何?」
「…いや、別に」
本当は、会って真っ先にお礼を言うつもりだった。そして、「誕生日おめでとう」と言ってやろうと思っていた。
それを果たせなかった晴人は、気まずさを誤魔化すように千彩に頬を寄せ、被ったままだったフードをするりと取ってそっと髪を撫でた。
「元気にしとったか?」
「うん」
「ちゃんと毎日薬飲んでるか?」
「うん」
「それから…」
「千彩、来い」
腕の中の千彩を奪われ、晴人はギッと智人を睨み上げた。舌打ちを我慢しただけ偉かった。と、晴人自身は思っている。
「どうしたん?ともと」
「もう中入れ。風邪引く」
「はるは?」
「玄関から入って来るやろ」
「うん!」
「ちゃんと手ぇ洗うんやぞ」
「はーい!」
言われた通りにすぐさま洗面所へ向かう千彩の背中を視線で追い、完全にその姿がリビングから出てから晴人に向き直った智人。見下ろした兄は、不機嫌そうに表情を歪ませていて。
やっぱりカッコ悪い…と、出かかった言葉を呑み込んだ。
「入れば?玄関から」
「…おぉ」
「言うとくけど、千彩連れて出るから」
「は?」
「ライブ」
「何で千彩連れて行くねん」
せっかく帰って来たのに!と、そう言葉には出さずとも、不機嫌なままの晴人の表情が十分にそれを語っている。それに「ふっ」と短く笑い声を洩らし、智人は背を向けてリビングの窓を閉めた。