Secret Lover's Night 【連載版】
千彩が変わってしまった。
やはりその思いは拭えなくて。「変わった」と表現するよりも「成長した」と表現するべきなのだろうし、それならば喜ぶべきことなのだろうけれど、どうしても晴人にはそれが出来なかった。
「おい、智」
少し声を低く、重くした晴人に、ギターの絃を弾いていた智人の指先がピタリと止まった。
「やめろや」
「お前、千彩に何吹き込んだんや」
「やめろ言うてんねん。そんな声で喋んな」
「答えろや」
「はる…?なに怒ってるん?」
いくら冷静さを欠いてしまったと言えど、さすがに千彩の不安げな声には敏感で。咄嗟に表情を緩める晴人に違和感を感じた千彩は、今にも泣き出しそうな顔をして一歩後ずさった。
「ちぃ?」
「…イヤ」
「え?」
「来い、千彩」
ギターを膝の上から下ろした智人が呼ぶと、千彩は慌てて和室へと駆けて智人の隣にペタリと座り込んだ。そして、胡坐を組んでいた智人の膝に額を押し付け、まるで猫のように背中を丸めてみせた。
「せやから言うたやろ」
丸まった千彩の背をゆっくりと上下に撫でながら、智人は表情を歪める。練習は何とかなっても、ライブに穴を開けるわけにはいかない。千彩を様子を見下ろしながら少し考え、眉根を寄せながら自分達を見下ろす晴人へ視線を向けた。
「そこの引き出しに薬の袋入っとるから取って。あと、水」
まるで「返事は要らない」と言わんばかりに智人が視線を逸らすものだから、晴人はそれに従うしかない。原因は自分だとわかっている。だからこそ、それ以上何も言わなかった。
「千彩、薬」
「…イヤ」
「飲め。またしんどなるぞ」
「ちさ、ともとのライブ行くもん。お薬飲んだら行けなくなるもん」
「今日は諦めろ。また連れて行ったるから」
「イヤ!」
薬を飲めと体を揺する智人の太ももをポカンッと叩き、千彩は嫌だと抵抗する。食後と眠る前、それが薬を飲む決まった時間で。それ以外の時間に薬を飲んだ時は、すぐに眠気が襲ってきて気付けば布団の中に居る。何度かそれを経験している千彩は、「今日は絶対に飲まない!」と抵抗した。
「もー…ええから飲めって」
「イヤ」
「俺そろそろ出なあかんし」
「ちさも行く」
「今日は家居れって」
「行くもん!」
智人を見上げて必死に食い下がる千彩の姿を見ていると、まるで自分は要らないと言われているようで。襲ってくる孤独感にギュッと唇を噛みながらも、自分で蒔いてしまった種だけに晴人は口を挟むことが出来ない。
そんな晴人に助け舟を出したのが、両手に荷物を抱えて買い物から戻ってきた母だった。
やはりその思いは拭えなくて。「変わった」と表現するよりも「成長した」と表現するべきなのだろうし、それならば喜ぶべきことなのだろうけれど、どうしても晴人にはそれが出来なかった。
「おい、智」
少し声を低く、重くした晴人に、ギターの絃を弾いていた智人の指先がピタリと止まった。
「やめろや」
「お前、千彩に何吹き込んだんや」
「やめろ言うてんねん。そんな声で喋んな」
「答えろや」
「はる…?なに怒ってるん?」
いくら冷静さを欠いてしまったと言えど、さすがに千彩の不安げな声には敏感で。咄嗟に表情を緩める晴人に違和感を感じた千彩は、今にも泣き出しそうな顔をして一歩後ずさった。
「ちぃ?」
「…イヤ」
「え?」
「来い、千彩」
ギターを膝の上から下ろした智人が呼ぶと、千彩は慌てて和室へと駆けて智人の隣にペタリと座り込んだ。そして、胡坐を組んでいた智人の膝に額を押し付け、まるで猫のように背中を丸めてみせた。
「せやから言うたやろ」
丸まった千彩の背をゆっくりと上下に撫でながら、智人は表情を歪める。練習は何とかなっても、ライブに穴を開けるわけにはいかない。千彩を様子を見下ろしながら少し考え、眉根を寄せながら自分達を見下ろす晴人へ視線を向けた。
「そこの引き出しに薬の袋入っとるから取って。あと、水」
まるで「返事は要らない」と言わんばかりに智人が視線を逸らすものだから、晴人はそれに従うしかない。原因は自分だとわかっている。だからこそ、それ以上何も言わなかった。
「千彩、薬」
「…イヤ」
「飲め。またしんどなるぞ」
「ちさ、ともとのライブ行くもん。お薬飲んだら行けなくなるもん」
「今日は諦めろ。また連れて行ったるから」
「イヤ!」
薬を飲めと体を揺する智人の太ももをポカンッと叩き、千彩は嫌だと抵抗する。食後と眠る前、それが薬を飲む決まった時間で。それ以外の時間に薬を飲んだ時は、すぐに眠気が襲ってきて気付けば布団の中に居る。何度かそれを経験している千彩は、「今日は絶対に飲まない!」と抵抗した。
「もー…ええから飲めって」
「イヤ」
「俺そろそろ出なあかんし」
「ちさも行く」
「今日は家居れって」
「行くもん!」
智人を見上げて必死に食い下がる千彩の姿を見ていると、まるで自分は要らないと言われているようで。襲ってくる孤独感にギュッと唇を噛みながらも、自分で蒔いてしまった種だけに晴人は口を挟むことが出来ない。
そんな晴人に助け舟を出したのが、両手に荷物を抱えて買い物から戻ってきた母だった。