Secret Lover's Night 【連載版】
「はる」
「ん?」
「どうしたん?」
「え?」

尋ねられた側の晴人は、何のことだかさっぱりわからない。ただ、心配そうにじっと自分を見つめる千彩の瞳がみるみる潤んでいくのがわかり、また不安定になったのだろうか…と静かに息を呑んだ。

「どないした?ちぃ」

頬を挟む両手を取り額を付けると、グリグリと押しつけて千彩の鼻先を擽る。そして、再びゆっくりと腰に手を回し、ギュッと引き寄せた。

「どした?」

刺激しないように、なるべく優しい声音で晴人はゆっくりと問い掛ける。すると、ふぅっと息を吐き、千彩がピタリと頬を寄せた。

「はる、悲しい?」
「ん?」
「悲しい顔してた。何が悲しいん?ちさのせい?」
「ちゃうよ。何も悲しくないで」

頭を撫でてやると、安心したのか千彩は呼吸を整えてギュッと晴人にしがみ付いた。

「はる、ごめんね」
「ん?」
「ちさのこと心配してお仕事休んだんでしょ?」
「・・・」
「ちさ、大丈夫。いい子してるから。ちさ、いい子」

何度も「ちさはいい子」と呟きながら小さく頷き続ける千彩に、晴人は何も言わず抱き締める力を強くすることで答えた。

「あら?ちーちゃん、おねむ?」

そんな二人の元にプリンと飲み物を運んできた母は、「仲良しやねぇ」と言いながら気を利かせて庭へと出てしまった。

さて、どうしようか…と、まだ慣れない晴人は、千彩を抱き締めたまま左右に体を揺らせて取り敢えずあやす体制をとってみた。

「ちぃ」
「んー?」

揺らされて晴人にペタリとくっついた千彩は、心地好さそうにゆっくりと瞼を下して間延びした声で答える。そんな千彩を揺らし続けながら晴人は、そう言えばこうして千彩をくっつけたままよく家の中を歩き回ったな…と、共に過ごした時間を懐かしんだ。
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